覚悟の“見切り発車” MRJついに事業化

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第二のリスクは、「新しい価値」のかなりの部分が、実は“人任せ”であること。MRJは米国プラット&ホイットニー社の新型ジェットエンジン「GTF」(ギアド・ターボファン)を採用する。ジェットエンジンの効率は、タービンの回転が高速なほど、逆に、空気を取り入れるファンは低速なほど高まるが、タービンとファンは同じシャフトでつながっており、“両立”は不可能だった。

GTFは、ファンとタービンの間に変速ギアを挿入して“二律背反”を解決し、燃費を1割、メンテナンス費用を4割削減する。ただしGTFはまだ開発途上。「コンパクトなギアボックスが巨大な負荷に耐えられるか」という冷めた見方もある。

全社で支える“民度”の試金石

三菱重工のリスク対策は、全社挙げての「MRJシフト」である。「MRJには、持てるすべてのリソースを投入している」と佃氏。4月1日、佃氏の後を襲った大宮英明新社長は、MRJ担当の戸田取締役と同時期に名古屋航空宇宙システム製作所の副所長を務め、両氏はいわば航空機畑の二枚看板。大宮氏はその後、「量産品」の空調事業を立て直し、受注生産品に量産品的なモジュラー生産の思想を注入する「ものづくり革新」運動を指揮してきた。

開発・設備投資を含め、MRJの投入資金は2000億円前後。回収は超の字がつく長期戦だ。その間、投資回転の速い「量産品」と、「ものづくり革新」で収益性を高めた受注生産品で、資金的にも収益的にも、MRJを支える「2トップ」体制である。

MRJのもう一つの決断は、官民の寄り合い所帯だったYS11の失敗を総括し、1社責任体制を確立したこと。4月1日設立のMRJ事業会社の社名はズバリ「三菱航空機」。トヨタ、三菱商事、三井物産、日本政策投資銀行も出資するが、三菱重工が3分の2の株式を握る。

もちろん、航空機事業に国家支援は欠かせない。MRJへの国家補助は約500億円。「世界の相手とイコールフッティングで競合したい」(佃氏)のは当然だが、国への過度な依存心はYS11への逆戻りだ。

経営の主体性を貫徹することで、市場との対話が真剣勝負になる。MRJは、三菱重工の“民(間)度”の試金石でもある。

(撮影:尾形文繁)

梅沢 正邦 経済ジャーナリスト

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うめざわ まさくに / Masakuni Umezawa

1949年生まれ。1971年東京大学経済学部卒業。東洋経済新報社に入社し、編集局記者として流通業、プラント・造船・航空機、通信・エレクトロニクス、商社などを担当。『金融ビジネス』編集長、『週刊東洋経済』副編集長を経て、2001年論説委員長。2009年退社し現在に至る。著書に『カリスマたちは上機嫌――日本を変える13人の起業家』(東洋経済新報社、2001年)、『失敗するから人生だ。』(東洋経済新報社、2013年)。

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