パイロットは「空のすばらしさ」を知っている 空を飛ぶことは「つながりを見つける行為」

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空を飛ぶことは「つながりを見つける行為」でもあると著者は言う。空や森、道路、住宅地、学校、川……。繰り返し味わううちに、最初は分からなかった関係性を発見し、個々の要素がどのように全体を織りなしているのかが見えてくる。

“大好きな歌手がカバーした曲を聴いたり、初めて会う親戚の顔立ちやしぐさに懐かしさを覚えたりといったことを、地球相手にやっているようなものだ。知っているはずの曲なのにどこか印象がちがって、初めて会うのに他人ではない気がする。”

「世界観」がつくられる

知識と実際の地理が結びつき、文字通りの意味で「世界観」がつくられる。この感じは、「初めて人体の構造を学んだ医学生が、ヒトの肉体に対してそれまでとちがう感覚を抱くのに似ている」そうだ。「町や国や海の大きさは、その上を飛ぶことによって初めて客観的に理解できる」という言葉もやけに説得力がある。

流麗で美しい文章も、本書の魅力の一つと言えるだろう。要所で強烈なインパクトが待ちかまえているというよりは、軽妙な筆さばきで流れるように運ばれる心地よさがある。一言で表すなら、「疲れない文章」。巧みな操縦で、絶え間なく押し寄せる気流の中でも安定したフライトを保っているかのようだ。写真や図の類は一切なしで、筆致のみで想像がかき立てられていく。

話題の軽快な移り変わりなどは本書に譲るが、印象的な表現をほんの一部だけ引いてみたい。たとえばグリーンランドの眺めを世界一と評するパイロットは多いそうだが、その眺望はこんな風に描かれる。

“海岸沿いに連なる山々に打ち寄せる海は固く凍りつき、紙のように白いかネオンブルーで、青い海には生まれたばかりの氷山の白点が散らばっている。氷河の角から産み落とされた氷山の産声がコックピットまで届くことはないが、急に海に放り込まれたのだから悲鳴をあげているにちがいない。長くせりだした角から絶えず落ちるしずくが、なだめるようにビートを刻み、そのリズムは日差しに急かされるとペースをあげる。大きな氷山ならば自前の陰でみずからの半身を覆うこともできるし、かなり上空にいる旅客機からも垂直に切り立った斜面を確認することができる。”

「雪をかぶった大地の上で回転する巨大な火の車輪のような輝き」を放つ、モスクワの夜の街。離陸後しばらくして巡航高度に達した時の、「胸が締めつけられるほど崇高な感覚の反転が起こる」瞬間。さらに「フライト中の昼夜の入れ替わりと自転の関係」のような話も、りんごと鉛筆とフラフープを引き合いに出して分かりやすく解説する。情景や感情、ちょっとした説明まで、絶えず頭の中に何かしらのイメージが湧き、書かれていることが腑に落ちる。

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