佐川急便と日立物流、提携で目指す"脱BtoC" 悲願の資本提携は佐川急便の何を変えるのか

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株式市場での評価も上々だ。30日朝の新聞報道を受け、上場している日立物流の株価は前日比5.75%高で引けた。SMBC日興證券の長谷川浩史アナリストは「補完関係への評価もあるが、佐川急便が日立物流の持分法適用会社になることで、1株利益が上昇することも買いを集めた要因」と分析する。

SGHDの中核企業である佐川急便は日立物流よりも売り上げ、利益ともに大きい。あくまで単純計算だが、1株利益は2割程度上昇すると試算できるという。

BtoBで成長を描くSGホールディングス

提携の狙いはBtoB強化と両者の首脳は語った(撮影:梅谷秀司)

SGHDは同業の宅配便大手のヤマトホールディングスや日本郵便の2社とは異なる戦略へ舵を切っている。2013年に不採算を理由にEC最大手のアマゾンとの取引を中止するなど、BtoC分野は規模より採算重視を優先している。

一方で「EC拡大でBtoB領域にもビジネスチャンスが増えている」(町田社長)と、BtoBシフトの姿勢を鮮明にする。

今回の日立物流との提携もBtoB強化の一端だ。さらに国際物流が売り上げの4割近くを占める日立物流との協業で「海外事業で競争優位を実現」(同社長)し、現状では700億円程度と1割に満たない海外でのB to Bの拡大もにらむ。

SGHDと日立物流に続く国内物流業界の大型再編が加速するだろうか。物流業界の関係者は「自前主義、同族経営が根強い。原油安で業績がいいところも多く、大手で次の候補は見えてこない」と否定的だ。

宅配便ビジネスを切り拓いてきたヤマトホールディングスは独特の経営遺伝子を持つ。企業間物流を得意とするセイノーホールディングスはオーナー企業の色が濃く、福山通運も同族色が強い。いずれも「資本提携にはアレルギーがあるだろう」(物流業界関係者)。

業界を取り巻く環境は決して楽観視できるものではない。国内貨物量は漸減傾向。幹線輸送では慢性的なドライバー不足から、人材確保のために処遇改善等で人件費が上昇し続けている。加えて、下落してきた原燃料費にも底打ち感が見られ、利益を圧迫する可能性が高まってきた。

配送単価も下落傾向にある。料金の適正化として2013年以降、宅配便大手3社(佐川急便、ヤマト運輸、日本郵便)は宅配便の値上げを行うなど、単価下落へ歯止めを掛ける動きもあるが、ECの急拡大で単価の低い小口の割合が増えているうえ、送料無料など荷主の値下げ要請も強く利幅を維持するのは難しい。

国内を軸に展開する物流企業を中心に、将来を見据えて、やむなく再編へ踏み出す企業が出てくるのは時間の問題かもしれない。

鈴木 良英 東洋経済 記者

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すずき よしひで / Yoshihide Suzuki

『週刊東洋経済』編集部記者

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