富士市の産業支援に全国から視察が来るワケ ノウハウを受け継ぎ、各地に「分身」が誕生
「患者さんは“病”を治したくて病院に来る。相談を受けた瞬間、その人の人生を預かっているんだ、と思って真剣に取り組んでいます」
小出氏はコンサル中、いっさいメモを取らない。じっと相手の目を見て表情を読み取る。相談内容は詳細に書き出し、“カルテ”を作りチームで共有する。“院長”が初診を担当し、必要に応じてマーケティング、デザイン、販路開拓、プロモーション、ブランディングといった“専門医”であるチームのアドバイザーたちと共に取り組んでいく。そのアドバイザーたちは、小出氏がヘッドハンティングした外部の専門分野で活躍するプロフェッショナルたちである。
「モダン神棚」の開発を後押し
国内企業の99.7%を占める中小企業。「そのうち100%が経営上の課題や問題点を抱えている」と小出氏は指摘する。エフビズの実績は国からも認められ、14年に全国47か所に開設された国の産業支援拠点「よろず支援拠点」のロールモデルにもなった。国会議員、自治体関係者、金融関係者など年間の視察は約60件。今年3月の参議院予算委員会ではエフビズの支援事例が全国中継で紹介された。
国会で紹介されたのは「神棚」の話。地方で神棚を製造販売する木工会社が、エフビズの支援をきっかけに経営改善に成功したという内容だった。
神棚を製造販売しているのは静岡県吉田町にある「静岡木工」。神棚をホームセンターや楽天市場などで販売している。55年の歴史を誇る同社は、創業以来神棚を作り続けてきた。しかし近年は売れ行きが低迷。洋風住宅に昔ながらの社(やしろ)スタイルの神棚が受け入れられなくなっていた。「新たな切り口が必要だ」と、三代目の杉本かづ行社長(36)がエフビズの門を叩いたのは、そんな過渡期だった。
沈んだ表情の杉本社長に、「パワースポットブームで神社を参拝してお礼を求める人は増えている。ただ、自宅に神棚がない。つまり、お札を置く場所がなくて困っている人がたくさんいる」と小出氏は指摘。さらに、従来の神棚の価値を変えて、「洋室でお札をお祭りする場所」ととらえる新たなコンセプトを提案した。
“モダン神棚”と名付けられた新商品は、洋風住宅のインテリアに合うウォールナットやメープルの木材を使い、よりコンパクトでシンプルな壁掛けタイプにした。時代にマッチした商品はたちまち30、40代の女性の心を掴み、テレビでも取り上げられるようになった。楽天市場の神棚部門では1位を独占、売り上げが40%アップし、今では1カ月待ちの状態だ。「地元の神社も全面的に応援してくださり、仕事に誇りが持てるようになりました」と杉本社長。異業種とのコラボなど、業績が安定した今でもエフビズとは繋がっている。
こうした事例について、「高度なコンサルティング力のある小出氏だからうまくいくんだろう」と思うかもしれない。しかし、これまでに北海道から沖縄まで6カ所にエフビズの “分身”とも呼ぶべき産業支援施設がすでに展開されていて、実績を上げている。
16年度だけでさらに5市町(長崎県新上五島町、同県大村市、宮崎県日向市、広島県福山市、岐阜県関市)で誕生する予定だ。
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