リーマン・ブラザーズ破綻から1年、真の教訓とは何か?

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 メリーランド大学のカーメン・ラインハート教授と私が近く出版予定の本『 This Time is Different 』の中で指摘したように、アメリカはリーマン破綻よりもはるか以前から深刻な金融危機に陥る兆候があった。 

住宅価格は短期間で2倍になり、アメリカの消費者の頭から貯蓄という考えが消えた。FRB(連邦準備制度理事会)を含む政策当局は、“成長”という名のパーティをあまりにも長く続けてしまった。さらに、利益に酔った銀行業界と保険業界はすっかり舞い上がり、投資銀行は、自らのビジネスを、経営陣や役員ですら明確に理解できないものに変えてしまった。

つまり、リーマン破綻だけが金融危機の元凶ではないのだ。金融システム全体が、住宅バブルと貸し出しバブルの崩壊に対処する準備ができていなかったのだ。金融システムはすでに、救済や再構築が不可欠なレベルにまで傷んでいた。そして、適切な処置を、一般の人々を傷つけずに行えるような、政治的あるいは法的なシナリオはなかった。大手銀行や投資銀行の破綻は、必要な政策を実施するきっかけとして、避けがたいものであった。

むしろ、リーマン破綻の問題点は、考え方ではなく、実施の仕方にあった。政府は新たな法律を押し通してでも、リーマンの複雑なデリバティブが金融システム全体に及ぼす影響を緩和するために、積極的に介入すべきであった。

こうした対応を一晩で行うのは困難だが、以前から危機の前兆はあった。たとえば、リーマン破綻の半年前に、世界の信用市場はゆっくりと凍りつき、欧米では不況が始まっていた。しかし、なんら対応策は講じられなかった。

では現在、必要な対応はなされているのか。金融部門を規制する議論は行われているものの、政府はそれが市場の信頼を揺るがすことを恐れている。住宅バブル崩壊に伴う調整が必要だとの認識はあるが、それによって消費の低迷が何年も続くことを受け入れるのは躊躇している。

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