「10年で変わらなければ東京は完全にダメになる」−−森ビル社長 森 稔
--シンガポールは母国の経済規模ではなく、まさに制度やシステムによって集積に成功した都市ですね。
シンガポールは今、世界の流通のセンターです。港湾では世界一。空港もいいレベルまで来ている。そして今度は金融もセンター化し、観光や国際会議でも世界的なセンターになろうと戦略的に動いている。これは一つの大きな示唆になると思います。一方で東京は働く場所しかなくて、通勤に往復で2時間もかかるから、仕事が終わってからも、まともなナイトライフが楽しめない。そういう文化的な生活ができない都市は魅力がないですから、ほかの国の人たちも来たがりません。
国際金融センターというのは、おカネが集まるだけではなくて、そのおカネを運用するための、いい人材が集まらなければ機能しない。企業もトップ企業、しかも、そのヘッドクオーター(本社機能)が集まらなければどうしようもない。
ですから、そういうトップリーダーが集まる場づくり、街づくりが必要です。いい事務所をつくるだけでは不十分で、働くこと以外にも、彼らが生活したり遊んだりするためのいい環境があるかどうか、それから子どもを安心して預けられる学校があるかどうか。トップリーダーの文化的な要求レベルは高いですから、それを満足させられるような文化的な環境があるかどうかが大事です。
ですから、国際金融センター化に成功すると、たとえばロンドンのように、今までまずかったはずの料理店が急に一流になってしまったり、それくらい影響がある(笑)。
つまり、集まる人たちの可処分所得が高く、サービスの要求レベルも高い。それで副産物がたくさん生まれる。そういった相乗効果があるので、金融センターが文化拠点となり、文化拠点の中に金融センターがある、といった感じになるんです。
-- 一方で、可処分所得の高い人たちにとって住みやすい街だが、庶民にとっては住みづらい街になる、といった批判もあります。
東京ではヒートアイランド現象などが問題になっていますが、こうした問題を引き起こしている原因は、日本的な街のつくり方や家のつくり方にあるんですよ。今のフラットで広く無秩序に拡大している大きな街が、ヒートアイランド現象を起こすんです。それに、通勤のために平均して1日に2時間もかかるような社会は改造しなければならない。
私は「ヴァーティカル・ガーデンシティ(垂直緑園都市)」といって、(高層化することで)土地利用の効率を数倍よくし、建物の周辺を緑に戻すことで地球環境にも優しい街にすべきだと言っている。都心も今までのように住宅と仕事場、遊ぶ場所と学校とを全部分けるのではなく、それらが複合的に統合された街にする。そうすれば通勤の問題も含めて、いろいろな時間を取り戻せる。そうしたタイムリッチな生活ができることこそが、知的産業にとっては大事なんです。知的な活動は切りがないですからね、一定の時間働いて、くたびれておしまいではない。職住接近とか、遊とか、医療とか、滞在型のホテルとか、国際的なクラブだとかが集約され、歩ける範囲にある。そういった街が生活のためにも、地球環境のためにもいいんです。
--東京をどうするかは、一方では地方をどうするかという問題でもある。格差拡大を恐れて東京改造を怠るのは本末転倒ですか?
今はグローバルでフラットな時代。みんながそれぞれ好きな街に住める。日本でも人口が増えていく街と減っていく街があるとしたら、減っていく街はダメですよ。地方でも増えている街は可能性がある。