「左遷された!」その8割は、単なる勘違いだ 人は自分の能力を「3割」過大に評価する

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従業員2000人の企業に勤める経理部の牧野さん(仮名)は、40歳を過ぎた時に、突然、営業部門に異動になった。彼は、自他共に認める会計や財務分野のエキスパート。休日にも専門書を読むなど、知識を磨くことにも余念がなかった。会社に貢献している自負があったので、「なんで私が営業に行くのだ」と理解に苦しみ、左遷になったと思い込んだ。

そして2年後、牧野さんが所属している営業部門が、本体から切り離されて子会社に移行されることが決まった。牧野さんも子会社に行く準備をしていたが、直前になって本社の経理部門に戻る辞令を受けた。

不思議に思って人事部員や経理部の人たちから経緯を聞いてみると、どうやら社長の命令で本社に戻ったことがわかった。そして2年前に経理部から営業に異動になったのは、社長から「(牧野さんに)現場の視点を身に付けさせるために、1回営業を経験させろ」という指示が出ていたからだというのだ。その時に初めて牧野さんは、自分で勝手に左遷だと思い込んでいたことに気がついた。

この例のように、社員が左遷だと勘違いすることは少なくない。人事部や上司が、異動の意図や理由をきちんと説明しないという慣行が影響している。日本の企業では、言わないでもわかるだろうという雰囲気が強い。また人事異動の権限は、会社や上司が一方的に持っていると考えているので、オープンには聞きづらいという心理がそれに拍車をかけている。牧野さんは左遷だと思っていても、その理由を誰かに確かめたことはなかったそうだ。

自分の評価は3割増し

周囲からの評価に対して、自己評価は概して高くなりがちだ。かつて私は保険会社の次長時代に、20人程度の人事異動を行った。業務に支障はなかったのに、対象になった社員の7~8割が不満を持っていた。納得がいかなかったので、一人ひとりに改めて話を聞いた。すると、私や人事部の評価に対して、社員自身の自己評価が3割程度高いことがわかった。

3割高く評価しているのであれば、客観的には問題のない異動も左遷に思えてしまうだろう。

心理学を専門にする大学教授によると、サッカーの試合が終わった後に「あなたは今日の勝利に何パーセントくらい貢献したと思いますか?」と貢献度を尋ねると、本来であれば選手全員の合計は100%になるべきだが、簡単に200%くらいまで達してしまうのだそうだ。

ただ、自分のことを高く評価して肯定感を持っていないと、組織の活力も生まれてこない。このため一概に悪いとは言い切れないが、「上司が自分を正当に評価してくれていない」とぼやく心情の中には、この3割増しの原則が隠れていることが少なくない。

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