あなたはiPhone「ロック解除」で丸裸になる 本当に怖いことが起こるのはこれからだ

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「裁判所は、その機器の基本的な機能が損なわれない限りは監視ができるという道筋を残した」とソゴイアンは言う。「だから、この判例から推測されるのは、アマゾンの(音声アシスタント端末)「エコー(Echo)」が現在の気温を教えられる限り、あるいは音楽をかけられる限り、政府はアマゾンに対して、ユーザーをスパイするよう命じることができるかもしれない、ということだ」。

アマゾンの「エコー」は秘密を守るか

ソゴイアンが例に挙げた「エコー」は、あなたの家庭内での会話をいつも聞いており、親切に手伝いを申し出る。エコーはその呼び名である「アレクサ」という言葉が発せられないか耳を傾けており、その言葉が聞こえると、あなたの声をアマゾンのサーバーにストリーミングし、解析を始める。アマゾンは、今回のアップルの件がエコーのユーザープライバシーにどう影響するかについてはコメントしなかった。しかし、エコーはつねに会話を録音しているのではなく、録音を留めておくのは、システムがユーザーの言葉をよりよく理解するために学習しようとするときだけだという。

しかし、こうした約束も、アップルの事例により脅かされる。もし、裁判所がiPhoneに侵入するようアップルに命じることができるなら、アマゾンに対して、エコーのセキュリティ・モデルを変えて、エコーがすべての会話を録音するように強いることも可能なのではないか? ソゴイアンは、アップルのケースが先例をつくると考えている。

読者の中には、この問題に対する簡単な解決策として、「自分をスパイできるような機器は使わない」と言う人もいるかもしれない。エコーは買わない。家の中にカメラは設置しない。インターネットに接続でき、在宅の時も不在の時もモニターできるようなサーモスタットは使わない、といった具合だ。

この意見にも一理ある。しかし、テクノロジーは私たちが意識的に選択しなくても、私たちの生活に入り込んでくる。スマートフォンやパソコンは、以前は道楽のようなものだったが、大勢が使うようになるにつれ、今では逃れられないものになっている。

「モノのインターネット」も同じような道筋をたどるだろう。雇用主や保険会社は、健康状態を追跡する機器を装着するよう、あなたに求めてくるかもしれない。カメラやセンサーがついていない自動車は存在しなくなるかもしれない。どの冷蔵庫にも、あなたが好むと好まざるとにかかわらず、カメラが内蔵されているかもしれない。

私たちはどんな世界を望むのか

「私たちはまったく新しい時代に突入しつつある」。こう話すのは、スタンフォード大学インターネット・社会センターのジェニファー・グラニックだ。少し前までは、私たちは監視が難しい世界にいた。「過去には、二人だけの秘密の会話をすることができた。会話の記録も残らず、誰かが記録にアクセスすることはなかった。書きたいことは紙に書いた。それを暖炉で燃やせば、永遠に消え去った」。

だが、技術的・法的な保護がなければ、テクノロジーによりこうした前提は壊される。

「今、私たちがいるのは、監視可能な世界だ」と、グラニックは言う。「監視は安価で、簡単でもある。社会が問うべきことは、私たちは本当にそんな世界を望んでいるのか、ということだ」。

(執筆:コラムニストFarhad Manjoo、翻訳:東方雅美)

© 2016 New York Times News Service

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