「シャープを含め、企業再生に甘い薬はダメ」 パナ社外役員に就く冨山和彦氏が直言する
――シャープが台湾・鴻海(ホンハイ)精密子業の子会社となることが濃厚です。
鴻海の言っている、経営陣の温存や事業の一体的な運営は、僕はあり得ないと思う。基本的に企業再生に甘い薬はダメ。経営陣や従業員、金融機関、株主に、苦い薬を飲んでもらう必要がある。
(鴻海とシャープ買収で競った)産業革新機構は(銀行に債権放棄を要求するなど)、ある意味、きまじめに苦い薬を提示した。普通、官が甘い薬を提示して、民はもっと厳しい案を出すものだが、今回は逆。官がゾンビ企業を延命させてけしからん、という批判は当てはまらないと思う。ただ、裏返して言うと、鴻海の郭台銘(テリー・ゴウ)董事長は交渉者として、一枚上手だった。金融機関が甘いクスリに飛びつくのを見透かしていた。
そもそも電機業界はデジタル革命の中、垂直統合型のモデルがどんどん衰退して、水平分業が進んできた産業。その流れの中で生まれた水平分業の雄が鴻海と言える。それなのに、最終ブランドメーカーのシャープを買収して、また垂直統合モデルに戻るのはどうなのよ?と。
シャープが垂直統合モデルに戻るのはどうか
というのも、シャープに都合のいいシナジーは、鴻海には都合の悪い話が多い。例えば、シャープにとっては鴻海以上に安く作れるところはないかもしれないけれど、鴻海からすれば、安く作って供給すべき相手はシャープなのか、アップルなのかという話だ。キャパシティには限界があるから。シナジー(相乗効果)の話を、電機のアナリストが書いているのを見て、耳を疑った。安く作れるという比較優位を誰のために使うべきかといえば、当然1番たくさん高く買ってくれる企業に使うべき。何年アナリストやっているんだ? と言う感じ。
問題はそれだけではない。最終製品を作るシャープと、鴻海の受託先とは、競合関係にある。自社が最終製品を作っていなければ、受託先と是々非々で付き合えるが、それができなくなる。
シャープなんかを傘下に持つと、それに拘束されるけど、そんなものがなければ常に勝ち馬を選べるわけ。水平分業モデルが勝ってきたのは、その自由度をお互いに持っている人たちが、端末機メーカーとしても製造組立業としても、勝ってきたから。要するに、垂直統合モデルというのは、多くの場合、終わっている。アップルは、最初から垂直統合モデルを選ばなかったから、あそこまで成功した。マーケティングに特化したからこそ、急激に大きくなり、スピーディーに展開できた。
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