三陸鉄道は「震災から5年」でどう変わったか 「あまちゃん」ブームに沸いた、あの路線の今

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それでも、望月社長はこう訴える。「1人当たりの運賃が800円とすれば、1万人が三陸鉄道に乗りに来てくれれば、800万円の収入になる。鉄道の収入はわずかだが、地元に宿泊して食事をして買い物をしてくれれば、1人が1万5000円使うとして10万人にお越しいただければ、地元には15億円の収入になる」。

観光客が地元に落とすおカネは意外に大きい。観光に詳しいJR幹部は「定住人口が1人減っても、宿泊旅行者が22人、あるいは日帰り旅行者が77人来てくれれば、補うことができる」と言う。定住人口1人当たり年間消費額と国内交流人口の1回当たり消費額から弾き出した結果だ。

「さらにいえば、外国人旅行者はとりわけおカネをたくさん使うので、7人分で補うことができる」(同)。そういう意味では、三陸エリアにも外国人観光客を呼び込むことが最善の地域活性化策ということになる。

ただ、訪日外国人客の岩手県に対する関心は、それほど大きくない。三菱UFJリサーチ&コンサルティングは、訪日客がどこで消費を行うかという調査を2015年6月にまとめている。これによれば、岩手は島根、徳島、宮崎に次ぐワースト4位。「ミシュラン・グリーン・ガイドを見ても、東北エリアの記述はあまりにも少ない」と、旅行関係者は残念がる。

新たな観光資源を生み出せるか

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あまちゃんに続く観光資源を掘り当てられるか(撮影:尾形文繁)

北リアス線と南リアス線の間を走るJR山田線の宮古―釜石間は現在、JR東日本による復旧工事が進められている。2018年末の工事完了後に、同区間の運行が三陸鉄道に引き継がれることになっている。

もともと全国屈指の赤字路線とされた区間だけに、移管後の運行を担う三陸鉄道にとって経営の重荷になりかねない。が、同区間の移管により北リアス線から南リアス線まで一元的な運行が行えることは、観光客をさらに呼び込むうえで大きなアピールポイントになる。

かつて、三陸鉄道には「小石浜」という名前の駅があった。地元の要望によって作られた無人駅。地元住民以外の利用はわずかだった。2009年、地元のホタテブランド「恋し浜ホタテ」にちなんで、駅名を「恋し浜」に変更した。地元の幼稚園児たちがホタテの貝殻を絵馬に見立てて、願い事を書いて駅舎に飾ってくれた。

「その後、女性誌の記事をきっかけに、この駅が恋愛成就のパワースポットとして注目されたのです」と、望月社長は言う。今では幼稚園児に代わって、若い女性が願掛けを書いたホタテ絵馬が小さな駅舎内にびっしりと飾られている。この駅で結婚式を挙げたカップルもいるという。新たな観光名所の誕生だ。

こうした地道な変化を積み重ねたことにより、この5年間で様変わりした三陸鉄道。今後5年で日本有数の観光地として、さらなる変貌を遂げているかもしれない。

大坂 直樹 東洋経済 記者

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おおさか なおき / Naoki Osaka

1963年函館生まれ埼玉育ち。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。生命保険会社の国際部やブリュッセル駐在の後、2000年東洋経済新報社入社。週刊東洋経済副編集長、会社四季報副編集長を経て東洋経済オンライン「鉄道最前線」を立ち上げる。製造業から小売業まで幅広い取材経験を基に現在は鉄道業界の記事を積極的に執筆。JR全線完乗。日本証券アナリスト協会検定会員。国際公認投資アナリスト。東京五輪・パラにボランティア参加。プレスチームの一員として国内外の報道対応に奔走したのは貴重な経験。

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