韓国が、とうとう北朝鮮に愛想を尽かした ミサイル発射が打ち砕いた南北融和の期待

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そうした中、南北融和の象徴的な役割を果たしてきたのが開城工業団地だった。同団地が位置する開城市は、歴史的にも非武装地帯の西側の浅い谷あいに位置し、2000年以上にわたって人々の南北移動の経路に使われてきた。南北分断当初、開城市は韓国最北の都市だったが、朝鮮戦争で北朝鮮軍および中国軍の支配下に置かれ、休戦以降は北朝鮮の都市となった経緯がある。

朝鮮半島の人々が南北再統一の希望を抱いたのは2002年、開城市で南北協力による工業団地が設立されると決まったときだ。同団地設立によって、人件費上昇に苦しむ韓国企業は北朝鮮の安価な労働力を活用できることになり、北朝鮮の人々にとっても韓国企業に勤める機会が舞い込んだ。

同団地設立の合意に至るには南北間で険しい交渉と対話が繰り返された。そうした過程について他国の人が弱腰だ、楽観的すぎるなどと批判するのは簡単だ。 韓国の国民にとっては、国家が分断される痛みは経験したものにしかわからず、他国からの批判は耳障りでしかなかった。南北分断の解消を韓国の人々は大いに期待していたのだ。

「北朝鮮とは協業できない」

だからこそ朴大統領の開城工業団地操業停止の決定は、韓国国内では驚きと落胆をもって受け止められた。彼女の決断は、北朝鮮の無慈悲な指導者と韓国は協業できないという明確な意思表示である。

今や東アジアの戦略的な構図は劇的に変化しようとしている。北朝鮮の好戦的な姿勢を受け、韓国は防衛的な姿勢を取り、米国が最新鋭のミサイル迎撃システムを導入することが予想される。

仮に北朝鮮がさらなるミサイル発射に踏み込んだ場合、韓国は自己防衛として発射台上のミサイルを標的にするのか、朴大統領は対応を迫られることになる。北朝鮮の暴走で世界の危険は一層増したが、韓国には国際社会の支持があることを忘れてはならない。

週刊東洋経済3月12日号

クリストファー・ヒル 米デンバー大学コーベル国際大学院長

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Christopher R. Hill

米国の元東アジア担当国務次官補。近著に『Outpost』。

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