また、テストドライブを行った2月中旬は一部路面にシャーベット状の雪が残っていたが、悪路での走行性能も満足いくものだった。モデルSはフロントとリアにそれぞれモーターを持ち、トルクは独立して電子制御される。従来の四駆車や全輪駆動車のように機械的なトルク配分を必要としないため、前輪が引っ張っているのか、後輪が押しているのか、よくわからない。つまり、四駆としての完成度が高いのだ。ミシュランのスタッドレスタイヤとも相性が良く、トラクションがガッツリ効いている手応えも感じられた。
このように車として優れた性能を備えているからこそ、自動運転の機能も十分堪能できた。ハンドルの左下にあるボタンを押すと、アダプティブクルーズコントロール(ACC)のスイッチが入る。加速も減速も応答性がいいから、追従性もいい。追従走行だけを見たら、現在市場にあるモデルのなかでもピカイチといっていいかもしれない。
また、自動で車線変更を行うオートレーンチェンジは、本当に周囲の車に迷惑をかけることなく実行できるのか、実のところ半信半疑だったが、モデルSはなめらかにこれを実行した。車線変更のタイミングはドライバーが与える。隣の車線のほうが交通の流れがスムースだったり、次の交差点で右折することがわかっていたり、ハンドルを握り、ドライバーが車線を変えたいと思ったりするときにウインカーを出す。これが人間から車への合図だ。システム側はソナーやカメラを使って前後左右の状況を確認し、安全に車線変更できることを判断すると、ウインカーを出した側の車線へ移動する。
なお、ハンドルを切るときに強めに動かすと、ドライバーオーバーライド(ドライバーが自分で運転するという意思表示)が機能して自動運転が解除され、人間が運転の主導権を握ることになる。自動運転では今まで以上に人間とシステムの接点を創造するHMIの研究が重要になるが、その設計思想がテスラのアドバンテージになると感じた。テスラの開発チームにはメルセデスの元エンジニアがいて、許可を得たうえでメルセデスと同じ部品を使っているという。人間中心の設計思想はそんなところから生まれたのだろう。
今後の自動運転車の主力はどうなるのか
自動運転と電気の相性のよさを踏まえると、10年後の自動運転車の主力はEVやPHEV(プラグインハイブリッド車)になると思う(含むFCV=燃料電池車)。自動運転のEVはさまざまなモノやシステムとつながり、今までにない新しい価値を提供するかもしれない。そのためには人工知能やディープラーニングなどの最先端テクノロジーの進化が必須だが、技術だけでなく法律や制度の改革も必要だ。テスラによるソフトウエア7.0のダウンロードサービス開始の動きから、自動運転を取り巻く法制度の現状と近い将来の変化を考えてみたい。
日本では1949年策定のジュネーブ道路交通条約に基づき、ドライバーは即座にハンドルを操作できる状態を維持することが求められている。2015年の東京モーターショーのタイミングで、トヨタ自動車など複数のメーカーが一般道での自動運転のデモ走行を行った際に、警察庁は、手のひらをハンドルに向けて10cm以上離れないようにしておく、というガイドラインを出しているが、実はこの“10cmルール”のほかに自動操舵を規制する法律が整備されていない。
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