ミタルが研究機関を集約、技術力でも日本鉄鋼業界を追いつめる?

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鉄鋼世界2位の新日本製鉄が、ブラジルでの高炉建設を検討している。同首位アルセロール・ミタルのおひざ元、欧州への輸出拠点としてブラジルは格好の立地だ。鉄鋼業界のバトルが熱を帯びている。JFEスチール東日本製鉄所(千葉地区)の構内に、製鉄所のイメージとは異なる瀟洒な建物がある。「カスタマーズ・ソリューション・ラボ(CSL)」--鉄鋼関連の研究機関としては世界最大級の規模を誇るスチール研究所の開発拠点だ。年間500人近い自動車メーカーの開発担当者が来所、新車開発の初期段階からコンセプトに合わせた鋼材を共同で提案・開発している。

こうしたユーザー側との協業は、JFEだけの取り組みではない。新日鉄は、三菱重工業と、積載量で従来の1・3倍となる8000個積みコンテナ船を建造できる鋼材を開発した。厚板営業部の船津祐二マネージャーは「海外メーカーに比べると10年のアドバンテージがある」と、自社の技術優位性を誇る。

日本の鉄鋼業復活を支えた「高級鋼」。厳密な定義はなく、高度な技術力を要する、製造業向け製品群だ。その生産には不可欠な二つの要素がある。一つは上工程から下工程までの一貫した「作り込み技術」だ。たとえば厚板の冷却を見ても、「均一に冷却するためには、前工程に当たる加熱が均一でないと商品にならない。技術の連続性という面で、海外メーカーは行き届いていない」(新日鉄・船津マネージャー)という。

新日鉄の一部技術はミタルの手の中に

もう一つの要素が、高度なユーザーニーズだ。欧米では規格どおりの製品が要求されるのに対し、日本ではそれに加えて、客先での使い勝手(パフォーマンス・ギャランティ)が求められる。結果、「品質管理が、単なるクレーム対応から、需要家側の製造工程も自らの生産プロセスの一部と見なす視点へと進化し、国内メーカーの技術革新を支えてきた」。かつて新日鉄で上海宝山製鉄所の建設などに携わった大阪市立大学大学院の杉本孝教授は、こう解説する。

では、日本鉄鋼業の優位性は今後も盤石なのだろうか。

現在、鉄鋼世界首位のアルセロール・ミタルは、新日鉄の北米での合弁パートナーを買収済みで、新日鉄の高級鋼に関する一部技術をすでに手にしている。当面は合弁の枠内での利用に限定されているが、その契約をいつまで維持できるか。

そのミタルが、世界各国にある研究機関の集約に着手したという。

杉本教授は「技術革新の積み重ねが組織化されている日本の技術優位性は、当分の間は揺るがない」としながらも、「旧NKKと旧川崎製鉄の合併によってJFEの研究機能が強化されたことを考えれば、ミタルについても同様のことがいえる。国内メーカーにとって、ミタルの集約は脅威だ」との見方を示す。

かつて新日鉄の三村明夫社長は、ミタルとアルセロールの統合に際して、「合併によって3年先の技術開発は担保されるが、10年先の技術は手に入らない。われわれの存在意義は、そこにある」と強調した。M&Aによる拡大を繰り返してきたミタルが自社での研究開発に舵を切り、10年先の技術を手に入れようとしている。「技術はいずれキャッチアップされる。さらに先に行く力が必要だ」(JFEの影近博専務執行役員)。M&Aが相次ぐ熾烈な生存競争の中で、日本鉄鋼業における技術革新の重要性は一段と増している。

(週刊東洋経済)

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