信託銀行「過去最大の日本株買い越し」の意味 産油国マネーの換金売りはいつ和らぐか

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日本株を買っている――。

2016年2月第3週(2/15~19)、年金基金の売買動向を反映するとされる信託銀行は4999億円を買い越した。これは1982年7月統計開始以来の最大規模。足元まで13週連続で買い越し、その合計額は2兆円弱に達する。
信託銀行を経由する手口は、①日銀の上場投資信託(ETF)、②年金基金、③企業の自社株買い等が挙げられる。

そのうち、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は世界最大規模の機関投資家で運用資産は140兆円(2015年12月末)。国内株の基本ポートフォリオが25%に対し、2015年9月末の21%台から12月末に23%台まで積み上がっていた。ところが、2016年の株安で国内株の比率が再び低下しているもよう。買い余力は4兆円近いとの試算もある。

通常、年金基金は下値を拾う。たとえば比率の上がった債券を売却し、比率が下がった株式を買い増す、ポートフォリオのリバランスを行っている。ただ、2月第3週の日経平均株価は6.8%上昇したにもかかわらず、信託銀行は大幅に買い越した。一方、海外勢が昨秋の急落局面に4.0兆円、今冬に2.6兆円(2月19日時点)を売り越している。

配当は過去最高となる10兆円超え

2015年度の上場企業(約3600社対象)の配当総額は約10.8兆円にのぼる。6年連続で配当総額が増え、3年連続で過去最高を更新する見通し。目立つのは業績見通しを下方修正した企業でも従来通りの配当を維持もしくは増額するケース。これは政府のコーポレートガバナンス(企業統治)改革が背景にあり、手元現金を活用した株主還元策(自社株買いや増配等)へ充てる流れが鮮明となっている。東証における上場株式を保有する個人投資家の割合は約2割。投資信託の分配金等を含めると3兆円近い現金が還元される。伸び悩む個人消費の下支えにもつながろう。

当面の経済指標やイベントは、4日に米2月雇用統計、5日から中国全人代(会期は10日間程度)、10日にECB理事会、11日にメジャーSQ。14日から日銀金融政策決定会合、15日から米FOMCが開催される。34ドル近くまで戻った原油市場が底入れを示唆するなか、日本株は信託銀行による買いや個人投資家による配当金の再投資が下支えしよう。2015年末値の日経平均株価は1万9033円、足元の年初来騰落率はマイナス15%台とさえない。仮に原油市場や為替市場が落ち着けば、3月の日本株は前述の月間パターンを脱し、もう一段の戻りを試す展開も想定される。

中村 克彦 みずほ証券 シニアテクニカルアナリスト

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なかむら かつひこ / Katsuhiko Nakamura

IFTA国際検定テクニカルアナリスト(MFTA)、日本テクニカルアナリスト協会(NTAA)評議員。

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