逆風にあえぐ地方鉄道、高速値下げが大打撃、フェリー・高速バスも苦戦《鉄道進化論》

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 愛媛・西条にある四国鉄道文化館には0系新幹線の初代モデルが展示され、鉄道ファンには聖域的な人気があるが、観光客全体の底上げにはなかなかつながらないのが実情だ。

むしろ四国が期待するのは「NHKの神風」だ。9月末からの朝の連続ドラマは徳島に住むヒロインの「ウェルかめ」。さらに松山を主な舞台にした司馬遼太郎原作の「坂の上の雲」が今年秋から断続的に放映、そして来年の大河ドラマは高知を舞台にした「龍馬伝」とあって、現地では地元のPR攻勢が熱を帯びてきている。各駅前にパビリオンを設けるほか、「ドラマゆかりの各地域を回遊して四国の魅力を知ってもらえるように、周遊型の共同PRを考えている」(松田清宏・JR四国社長)。

観光業界が中心でも、地元にカネが落ちれば、それがやがて地域経済の回復につながる芽もあるだろう。ただ、今回の高速道路値下げが、本当に地方景気を潤したのかどうか、疑問視する声もある。

「宿泊客は思ったほど増えていない。安い高速道路で高知や徳島まで足を延ばし、日帰りしてしまう客が多いのでは」(松山商工会議所の塩崎桂事務局長)

いよぎん地域経済研究センターの原正恒社長も「経済対策だからプラス効果はある」と前置きしたうえで「他の交通機関に与える影響など影の部分にも優しい目線を持つことを忘れないでほしい」とくぎを刺す。

高速値下げは日帰り旅を増やし地方格差を助長か

高速道路だけ値下げしたため、鉄道だけでなくフェリーや高速バスの経営には大きな打撃を与えている。中小フェリーは減便や廃止が相次ぎ島の生活者の移動の足を奪う。

JR四国は香川県内の高松-多度津を除いて単線区間。ほとんどが非電化で、ディーゼル車が地域の交通弱者の貴重な足だ。愛媛県南部と高知県西部を結ぶ予土線には特急もなく、1時間に1本程度の1両編成のワンマン車両が山間の線路をつないでいる。利用客はほぼ高齢者と学生のみだ。「特急や列車の本数が減れば乗客も減る悪循環だ」(原社長)。

民主党は高速道路料金の恒久無料化を公約に掲げる。JR四国の松田社長は「企業努力だけではもう限界」と悲鳴を上げる。その声は地方鉄道事業者すべての本音だ。環境に優しい公共交通機関をどう活用するのか。CO2大幅削減を世界に誓う日本の政治の真価が問われる。
(週刊東洋経済)

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