TDKが「儲かるスマホ部品」から離れる理由 「本当に悩ましかった」。上釜社長が語る

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だが、その後アップルやサムスン電子が台頭してきた一方、ヨーロッパのスマホメーカーが一気に衰退したことで大変な状況になった。製造ラインは閑古鳥が鳴く状態で、本当に厳しい事業運営が続いた。

――クアルコムとの合弁の話が来たのはいつごろだったのか。

オファーが来たのは現在から2年ほど前。この頃はまだ赤字を引きずっていたものの、徐々に改善しつつあった。なので、最初に取締役会にかけたときは「なぜやる必要があるのか」という声も多かった。

そこから5回以上経営会議を行い、熟議を重ねたが、そうしている間に高周波部品が儲かる事業になってしまった。こうなると合弁を推進してきた私自身の中でも葛藤が出てくる。本当に悩ましかった。

――それでも提携を選択した。なぜか。

黒字になったといっても、モジュール事業は赤字。それを部品の黒字で補っているのが現状だ。一方、スマホは明らかにモジュール化が進んでいる。ある顧客には「将来的にはいくつかのモジュールとディスプレーとバッテリーをはめ込むだけでスマホが造れるようになる」とまで言われた。

スマホのモジュール化に対応できるのか?

その流れに対応するには、通信部品にかかわる周辺分野の買収を行わなければならないが、多額の投資が必要になる。一方、われわれがスマホ向けに注力しているもう一つの分野にリチウムポリマー電池がある。これも好調に業績を伸ばしているが、高周波部品と同じく投資費用がかさむ分野だ。

台数が鈍化し、コモディティ化も進むスマホに投資を集中してしまうのは避けなければならない。どちらを取るか考えた結果、苦手な通信モジュールを自社単独でやるよりは他社と組んだ方がよいという結論に達した。

提携という点では、実はほかのメーカーからも話は来ていた。それでもクアルコムと組むことにしたのは、通信モジュールも結局コントロールするのはスマホの頭脳に当たるCPUだから。CPU分野で圧倒的な強さを持つクアルコムと組むことがベストだと考えた。

――クアルコムとは、高周波分野以外でも協力していくのか。

当然協力していく。特に電池分野は期待できる。クアルコムは急速充電や非接触充電の分野で強力な実用特許を持っている。ただ、自分で電池を作っているわけではない。一方、TDKには電池そのものを生産しているという強みがある。この2つを組み合わせる事で非常に良い製品を作っていけるようになる。

次ページまだまだ続く、構造改革
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