中国・新疆ウイグル自治区騒乱、当局の姿勢はチベット騒乱時と何が変わったか

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7月8日午後、主要国首脳会議(G8、ラクイラ・サミット)出席のためイタリアを訪問中だった中国の胡錦濤・国家主席は、日程を切り上げて北京に戻った。7月5日に発生した新疆ウイグル自治区での騒乱が激化したことで、事態収拾の陣頭指揮をとるためだ。

サミットでは新興国代表としての中国が、世界経済、温暖化対策でどのようなスタンスを打ち出すかが注目されていた。胡主席の代役は外交担当のトップである戴秉国国務委員(副首相級)が務めるが、中国首脳の不参加はラクイラ・サミットの意義を大きく低下させるとみられる。中国にとっても今回のサミットは国際社会での発言力を高めるうえでのエポックとなるはずだっただけに、その打撃は小さくない。

7月5日、新疆ウイグル自治区の区都・ウルムチで始まった騒乱による死者は、中国政府の発表ベースでも156人に達した。きっかけは広東省韶関市の玩具工場で6月26日に、出稼ぎに来ていたウイグル族労働者が漢族の労働者に襲われ、ウイグル側に2名の死者と89名の負傷者が出たことだとされる。

その事件に対する地元警察の対応に抗議するデモがウルムチで組織され、警備側との衝突が大規模化した。中国政府は「世界ウイグル会議」のラビア・カーディル議長(米国に亡命中)を首謀者と名指しし、「一般的な治安事件を民族事件に仕立て、民族間の対立感情を扇動した」(自治区トップの王楽泉党書記)と主張している。一方のカーディル議長は「非難は事実無根。抗議行動を組織したこともなければ、人びとにデモを呼び掛けたこともない」と反論しており、両者の言い分は真っ向から食い違っている。真相はなお明らかでないが、経済発展の陰で民族間の矛盾が深刻化し、政府が有効な手立てをとれていなかったことはたしかだ。

事件発生当初から、当局が海外に亡命している人物を首謀者だ、と非難するのは昨年3月におきたチベット騒乱当時と同様だ。事態の原因が中国の少数民族政策にあるのではなく、一部の過激な独立派による策謀だ、と内外に印象づけるための方策といえる。ただ、チベット騒乱当時と大きく異なるのは、海外メディア対策である。 

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