ハーバードビジネススクール 不幸な人間の製造工場 フィリップ・デルヴス・ブロートン著/岩瀬大輔監訳・吉澤康子訳 ~鋭くえぐり出される問題点、矛盾点

本書は、英国人ジャーナリストの手によるハーバードビジネススクール(HBS)留学体験記だが、ただの体験記ではない。米国型資本主義の象徴的存在であるHBSの抱える問題点や矛盾点を、経験豊富なジャーナリストらしく冷静かつ客観的に、そして時に批判的に、鋭くえぐり出している。読者は、人生における真の成功とは何か、幸せとは何か、について深く考えさせられることだろう。
著者によれば、HBSでは成功=金銭的成功であり、そのため本来、人もうらやむほど多くの選択肢があるはずなのに、常に成功へと駆り立てられた多くのMBAが選ぶ道は、金融やコンサルティング等、非常に限られる。彼らは、多額の報酬と引き換えに多くの犠牲を強いられ、必ずしも幸せとは言えない人たちばかりだ。これも、米国のエリート、そして米国型資本主義の歪んだ価値観の表れだ。
著者はまた、今回の金融危機の元凶である投資銀行やヘッジファンド、プライベートエクイティ、さらには米国型資本主義の中枢機関にも多くの人材を輩出しているHBSは、「世界のリーダーを育てる」というその目的を果たしていないと手厳しい。そもそも真のリーダーシップは教室で簡単に教えられるものではなく、ビジネスの現場で鍛えられるものであり、そこにHBS教育の限界を感じる。
彼はさらに、HBSでは理論や論理力、分析力は教えられても、ビジネスのうえでもっと大切な人の心や感情を理解することまでは教えられないと嘆く。
日本でもMBAブームが続いている。確かに自己研鑽に励むのは結構なことだ。しかし、HBSだけでなくすべてのビジネススクールがその存在意義を問われている現在、今一度本書を手に取り、本質的な問いかけをしてみたい。
日経BP社 2310円 477ページ
Philip Delves Broughton
フリーのジャーナリスト。フィナンシャル・タイムズなどに寄稿。バングラデシュ生まれの英国育ち。英ニューカレッジを卒業、米ハーバードビジネススクールでMBA取得。デーリー・テレグラフ記者としてニューヨーク、パリ勤務を経験。
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