広告代理店の「パワポ離れ」が進んでいる 「議論を深めること」を重視
同エージェンシーの場合は、オフィスのリフォームがきっかけだった。従業員が顔を合わせる共同スペースをもっとオープンにしたところ、プレゼンの回数が減り、チームミーティングの回数が増えたのだ(社内ミーティング及びクライアントとのミーティングの両方ともだ)。マーティン・エージェンシーは、デッキの使用をあからさまに禁じたわけではない。だが、最高コミュニケーション責任者(CCO)、ディーン・ジャレット氏は、パワーポイントが使用されなくなってきているのは確かだと述べる。
自分の赤ん坊のような存在
加えて、プレゼンを作成する側は、それほど「デッキ使用禁止」を問題視していないという事実もある。とあるエージェンシーで働く、ミレニアル世代の従業員は、アカウントディレクターとして働いた最初の2年間に75~80のデッキを作成した経験を、匿名を条件に語った。
「パワーポイントの出来によって考え方が変わる。整然とした短い箇条書きやすっきりとしたスライドになじまないならば、それはいいアイデアではない、という感じだ。私たちがパワポ離れできるならやってみたい。大学でも十分にデッキを使ってきたから、もううんざりだ」
だが、人によっても見方は違う。ピュブリシス・シアトル(Publicis Seattle)のストラテジスト、アミット・グアナーニ氏は、エージェンシーで働いている間に大量のデッキを作成してきた人間として、デッキの作成者は、それが実際どれほど役に立っているのかがわからないのだ、と述べる。
「どのデッキも、作成者にとっては自分の赤ん坊のような存在だ。その赤ん坊が醜いことを知らないのは、部屋のなかで彼らだけだ」
ヒュージ(Huge)のエグゼクティブ・クリエイティブ・ディレクター、シェリン・カジム氏は、同社ではパワーポイントを使用したプレゼン自体は廃止していないものの、その回数が減っているのは確かだという。プロトタイピング・ソフトウエアが向上してきたので、ヒュージのチームは、「概念実証」(POC)としてまず試作品を提示することが多く、プレゼンソフトのデッキの必要性がなくなりつつあるか、少なくとも大幅に減っているという。
カリフォルニア州のモントレーとサンフランシスコを拠点とするヴェナブルズ・ベル&パートナーズ(Venables Bell & Partners)のポール・バークス=ヘイ社長は、同社ではミーティング文化全体への非難が広がり、デッキの減少につながっていると語る。