半導体産業の大再編がモノ作りの変化を迫る、「産業のコメ」国内自給体制に転機
本来2009年は日本の半導体産業にとって記念すべき年だ。1985年に米国テキサス・インスツルメンツを抜き、92年に米国インテルに抜かれるまで7年にわたり半導体世界首位だったNECが、本邦初の日米合弁企業として1899年に設立されて110周年、半導体の研究開始から60周年に当たる年なのだ。
だが研究開始からちょうど60年の09年4月、NECは半導体から事実上、撤退の決定を余儀なくされた。「長年にわたり半導体は3本柱の一つ。だが今は100年に一度の不況で、今年110周年の当社は設立以来のような決断をすべき時期。半導体は品種ごとに世界首位ないし2位でないと利益が上げにくい市場となったが、独力でシェアやユーザーを増やすのは困難。こだわりは捨てる」と、矢野薫NEC社長は語る。
NECは記憶回路DRAM分野を99年に日立製作所と統合済み。論理回路(システムLSI)分野を02年に継承させた子会社NECエレクトロニクスも、10年4月のルネサステクノロジ(日立製作所と三菱電機の論理回路分野を03年統合)との統合で持ち分会社となる方向だ。これで直系の半導体事業は消滅する。
このNECエレクトロニクスとルネサステクノロジの統合は、産業のコメである中核部品の国内自給体制、ひいては電気機器や自動車など広範な需要産業のモノ作りに地殻変動を引き起こすこととなる。
内需「すり合わせ」の崩壊
日本の半導体産業、特に設計・開発が付加価値の源泉となる論理回路分野の特徴は、顧客との「すり合わせ」重視だ。それは出自に起因する。
日本では通信や電力など社会インフラの機器国産化を旧財閥系の企業集団に分担させ、結果的に住友系のNEC、古河系の富士通、安田系のOKI(沖電気工業)という「電電御三家」、安田系などの日立製作所、三井系の東芝、三菱系の三菱電機という「重電御三家」が、通信機器や発電設備で得た資金を投じ、自社製の電話交換機や電子計算機などに搭載する半導体を国産化、産業用や民生用の電子機器向けも拡大してきた。
だから半導体大手は資金面も需要面も社内依存で始まった、通信機器や総合電機の企業が垂直統合的に併営する兼業ばかりになった。また、総合電機が家電も半導体から完成品まで手掛けたため、対抗上、家電大手も半導体を併営する構図となった。