生命進化の歴史は地球の環境から読み解ける 生物はどのように誕生したのか

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重要性では先の4つのイベントに劣るが、なんといっても人気があるのは恐竜だ。恐竜の絶滅は、約6500万年前に、直径10~15キロメートルともいわれる巨大な隕石がユカタン半島に衝突したことによってもたらされた。このK-T境界絶滅では、恐竜の絶滅だけでなく、全生物種の75%もが消失し、その結果生じたニッチがほ乳類の台頭を促した。

隕石の衝突があったことも、それによって恐竜をはじめとする多くの生物が地球から消え失せたことも事実だ。しかし、それ以前からすでに、「真の極移動」による大量絶滅の兆しのあったことが認められつつある。だから、K-T境界絶滅は、隕石の衝突だけが原因なのでなく、すでに進み始めていた大量絶滅が隕石によってとどめをさされた、というのが正しいのである。

なぜ恐竜は進化できたのか

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どうして巨大な恐竜が進化できたか、という話もえらく面白い。トカゲやワニのような現生爬虫類は、骨格の構造のために、動きながら呼吸できない、ということをご存じだろうか。息苦しい話で、酸素摂取的には相当に不利なのだ。

しかし、二足歩行ができるようになると、そのような制約から解放される。恐竜が登場するのは三畳紀(約2億~2億5000万年前)の後半なのだが、この時代は、酸素濃度が今の半分ほどしかなかった。そのような低酸素に適応するために、まず、二足歩行の小型恐竜が進化したのである。

もうひとつ重要なのは肺の構造だ。恐竜の子孫とされる鳥類の肺の構造は、ほ乳類と異なっている。ほ乳類の肺は風船のように膨らんだり縮んだりするが、完全に縮みきることはない。だから、息を吐ききっても、二酸化炭素を多く含む空気がどうしても肺に残ってしまう。しかし、鳥類の肺は、空気が一方通行で流れるようになっているので、そのような無駄がなく、換気効率がほ乳類より優れている。だから、オグロヅルのようにエベレストの上空を飛んで超えるような離れ業も可能なのだ。

鳥類に進化する以前の恐竜も、三畳紀後半の低酸素への適応として、現在の鳥類と似た構造の呼吸器を持っていたことがわかっている。そして、三畳紀が終わってジュラ紀にはいると酸素濃度が現在と同じくらいまで上昇した。このことは、すでに低酸素に対して十分に適応していた恐竜にとって大きなアドバンテージだった。酸素を有効に取り込むことができたがために、大型化と多様化がもたらされたのだ。ここでも、酸素恐るべし。

ごく一部しか紹介できなかったが、爆発的な知的興奮が全編を通じて持続するほど面白い話が目白押しだ。そして、この本を読むと、よほどの大発見がない限り、向こう10年ほどは、同じような内容の本を読む必要はないはずだ。決してやさしい本ではないが、読む価値は十分にある、というよりも読まなきゃ損だ。

新聞広告によると、出版1カ月で重版らしい。この手の本としてはかなりの売れ行きと言っていいだろう。しかし、もっと爆発的に売れるだけのポテンシャルを持った本であると断言しておきたい。

仲野 徹 大阪大学大学院・生命機能研究科教授

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なかの とおる / Toru Nakano

1957年、大阪市旭区千林生まれ。大阪大学医学部卒業後、内科医から研究の道へ。京都大学医学部講師などを経て、大阪大学大学院・生命機能研究科および医学系研究科教授。HONZレビュアー。専門は「いろんな細胞がどうやってできてくるのだろうか」学。著書に『こわいもの知らずの病理学講義』(晶文社、2017年)、『からだと病気のしくみ講義』(NHK出版、2019年)、『みんなに話したくなる感染症のはなし』(河出書房新社、2020年)などがある。

 

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