銅相場の急騰を招いた中国"爆食"の腹づもり

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 原油と並んでLME(ロンドン金属取引所)の銅価格が目を見張る動きを見せている。WTI原油相場が昨年末から2倍以上も上昇する中、同じ時期に、銅の国際価格であるLME価格も1トン2700ドル台の大底から直近高値で5200ドル超と、2倍近くにハネ上がった。

銅は亜鉛やニッケルなどベースメタルと呼ばれる非鉄金属の中でアルミの次に消費量が多く、ハイテク製品に不可欠な資源。本格的な実需回復を追い越し相場上昇が続けば、川下のメーカーが再度のコスト高に泣かされかねない。

実需ではなく備蓄

原油相場では投機マネーの再流入が挙げられるが、銅価格上昇の主犯と見られているのは中国の「買いあさり」だ。

最大の銅消費国である中国は昨年、世界の消費量1800万トンの約3割・520万トン(2位米国の3倍近く)を“爆食”した。リーマンショック直後はさすがに食欲も減退していたが、年初から再び急激な調達に動き出した。国家物資備蓄局はこの3月までに約30万トンを調達し、さらに年内に100万トンまで買い増す計画を発表している。結果、LME価格にとどまらず、中国国内での取引価格も大幅に吊り上がった。2006年以降の国際価格8000ドル台の歴史的高値のときでさえ、LME価格を下回っていたSHFE(上海先物取引所)価格が、今年に入って逆転するという現象が起きている。

レアメタル専門商社アドバンスト・マテリアル・ジャパンの中村繁夫社長は、「中国国内は今、銅の取り合いパニック。3月くらいからは“狼狽買い”が始まっている。4月以降は銅の専門商社でもないのにウチにまで買いに来ているが、それも(政府出資の)集団公司。実需ではなく備蓄だ」と言い切る。

中国が備蓄に走る理由として指摘されているのが、かの4兆元の景気対策。農村部の消費を底上げするため、実験的に行ってきたテレビや冷蔵庫、洗濯機などへの政府補助を全省で展開する「家電下郷」。自動車の購入や買い替えに補助金を出す「汽車下郷」などに備えた動きでは、という見方だ。

しかし、中国の国家備蓄制度は、国防上の必要性から1953年に始まったもので、対象は銅に限らずアルミ、ニッケルなどのベースメタル、インジウム、ガリウム、タングステンといったレアメタルまで幅広い。市場関係者は「相場の価格が下がったから買いあさっているだけ。ここから先は在庫との見合い」とする見方が支配的で、一段高を予想する向きは少ない。“爆食”による相場の揺さぶりは本当に沈静化したといえるのか。中国の懐具合は見えない。
(山本隆行 =週刊東洋経済)

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