【産業天気図・鉄鋼】在庫調整完了で雨足は弱まるが、実需低迷で依然として雨模様は続く

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予想天気
  09年4月~9月   09年10月~10年3月

2009年度の鉄鋼業界は終始、「雨」模様となりそうだ。ただ、08年度後半、特に09年1~3月のような先の見えない土砂降りからは状況が改善。雨の勢いは後半に向かうにしたがって、徐々に弱まるものと見られる。

08年度の四半期ごとの国内粗鋼生産量を振り返ると、9月までの好天が10月以降、急速に悪化したことが読み取れる。

08年 4~ 6月:3106万トン(前年同期比 3.9%増)
     7~ 9月:3045万トン(  同   1.8%増)
    10~12月:2640万トン(  同  14.5%減)
 09年 1~ 3月:1760万トン(  同  42.9%減)

9月までは、過去最高を記録した07年度(1億2151万トン)並みの高水準の生産が続いていたが、第3四半期には年産1億トン台ペースへと減速し、第4四半期には同7000万トン台まで急落した。07年の建築基準法改正以降、不振が続いている建設向け鋼材に加え、自動車や電機など主だった需要業界の大減産のあおりを受け、製造業向けの鋼材需要までもが激減したためだ。
 
 4月の国内粗鋼生産量は572万トンで年換算6800万トンペース。足元の生産水準は09年1~3月と同様の底ばい状態が続いている。ただ一方では、底入れの兆しも見え始めている。トヨタ自動車をはじめとした自動車各社が今夏にかけて前月比での増産に転じる見通しなのに加え、3月の公共土木受注額は前年同月比12.7%増と5カ月ぶりのプラスとなった。4月の普通鋼鋼材受注量も454万トンと4カ月ぶりに400万トン台を回復しており、「一時は需要の底割れを危惧したが、補正予算の実行などを考えると回避できたのではないか」(新日本製鉄<5401>の宗岡正二社長)との見方が業界に広がっている。

需要水準とともに業績を大きく左右するのが、鉄鉱石をはじめとした原料価格と鋼材の販売価格だ。前者は鉄鉱石が豪州産粉鉱で前期比33%値下げとなる1トン当たり約60ドル(ブラジル産粉鉱は同28%値下げ)、原料炭が同57%値下げの1トン当たり約130ドルで鉱山会社との価格交渉が決着した。一方、鋼材価格はひも付き(長期大口契約)ユーザーとの交渉が一部継続中だが、新日鉄とトヨタとの間で1トン当たり1万5000円(前期比十数%減)の値下げで妥結したことから、他社・他業界との価格交渉も同様の水準で決着するものと見られている。これらの値下げ要因を鋼材1トン当たりに置き換えると、各社ごとでバラつきはあるもののマージンはおおむね2000~3000円の改善に向かうと見られる。

ただし、こうしたマージン改善が十分に効いてくるのは一定の生産水準が保たれている場合のみ。足元のような低水準の操業が続けば、装置産業ゆえに固定費負担が重くのしかかってくる。加えて、原料価格下落に伴う棚卸評価損や、前期に調達した手持ちの高値原料炭が第1四半期の利益を圧迫することも見込まれている。業績的には4~6月を底に期末に向けて尻上がりに回復していくであろうが、着地がどうなるかは鋼材需要の戻り方次第。夏までには客先の在庫調整がほぼ完了すると見られるが、実需レベルは直近ピーク時の7~8割が妥当な線か。業界全体に晴れ間が戻るには、まだ幾分かの時間を要しそうだ。

(猪澤 顕明)

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