上司へ何でも相談する“お伺い体質”のある企業はよくない。花王でも、一時“お伺い体質”が徐々に強くなってくる傾向がありました。私が社長に就任した頃のことです。私は傍流の化学品畑を歩いてきましたので、主流の家庭品事業については知らないことが多かった。当時、私より年長の代表取締役が5人いて、彼らは長年役員を経験していたこともあり、さまざまなことを知り尽くしています。必然的に彼らに“お伺い”を立てる社員が多くいました。だから私は「若返りをすることでこの体質を変えていく必要がある」と訴えたところ、5人の代表取締役は「わかった」と気持ちよく退いていただけました。内紛と言う人もいたようですが、決してそうではありません。
社長就任後に下したもう一つの大きな決断は、フロッピーディスク事業の撤退です。理由は赤字だからというだけではない。花王には市場の変化動向を把握する力がないし、追随も難しい「飛び地市場」であることに気づいたからです。化粧品は1982年に参入し、累積赤字が解消したのは2000年度でした。その間やめなかったのは、花王の周辺を埋め立てる事業だったからです。いつまでも若々しくいたいという女性向けの化粧品市場は、花王が得意とするトイレタリーの周辺市場です。ところが情報産業のフロッピー市場は、あまりにもかけ離れていました。だから撤退したのです。
チャレンジ精神を高く評価することも大事
このほか失敗によって決断を迫られたのは、化粧品の押し込み販売がわかったときです。金額としては全売り上げの0・4%にすぎず、会計士などからは、この額で業績修正を発表する必要はないのでは、とも言われました。けれども、リリースで正式に公表し、経営者・担当者の責任を明確にして処理しました。悪いことをきちんと発表しないと、悪いことをやってもいいのではとなってしまうことを恐れたのです。
私は「見切る勇気」が大事だと思っています。ダメだと思ったときにやめる勇気です。さらに、やめたときに、よい経験も積み上がったという気持ちを持つことも重要です。だから私は、失敗した事業についても、人材が育った、技術はこういうところに生きているということを、事あるごとに言ってきました。フロッピーの担当者も、その後、シャンプーや洗剤の研究、あるいは海外での営業で、力を発揮してくれました。「見切る勇気」とともに、チャレンジする精神を高く評価することが大事だと思っています。
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