『マルクスは生きている』を書いた不破哲三氏(日本共産党付属社会科学研究所所長)に聞く

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--マルクスの病理学者の目で今回の世界的な経済危機を見ると。

マルクスの恐慌論については7年ほど前に熟考したことがある。いままでマルクスの恐慌論には二つ柱があった。一つは恐慌の可能性の議論、もう一つは、どんな矛盾が恐慌を引き起こすのかという根拠・原因論だ。いままで、矛盾が恐慌という形で爆発するまでなぜ大きくなるのかについては、マルクスの恐慌論としていわれてきたものの中では整理がなかった。そこには「失われたリングがある」があると考えて、それを探求しようと研究した。恐慌の運動論だ。

今回の場合、アメリカのサブプライムローンとは虚構の需要だった。みかけは金融恐慌だが、土台にはその架空の需要がある。アメリカの家計が持っている過剰債務は8兆ドルあだという。それだけのものがバブルの元になっているのだから、過剰生産恐慌になるのは当たり前だ。金融恐慌で広がったが、金融で恐慌現象が起こったわけではない。生産と消費の矛盾が爆発している。自動車が痛めつけられるはずだ。いまの現象を見ると、マルクスが分析した恐慌の現代版。同じようにバブルが起きて、形は違うが理屈は同じだ。

--地球温暖化についても、この本で警鐘を鳴らしています。

マルクスの時代に比べ、エネルギー消費量は人口当たり21倍ある。資本が限りなく生産を増やすことで被害を与えるまでは書いたが、地球を壊すところまでは予想しなかった。生物が地球上で生きていく条件を損ない、それを治す力を持っていないとしたら、そういう体制はほかにどんないいことがあっても成り立ちえない。これは資本主義の限界を、マルクスが予想したよりももっと激しい形で示すものではないか。

--「未来社会の開拓者」としての視点では。

マルクスについては誤解が多い。有名なのは、たとえばマルクスは革命は暴力革命といっているというもの。これはレーニンの整理であり、マルクスは普通選挙権に注目して、それを通じて革命ができるといった最初の革命家だった。

だからこそ、「マルクスを、マルクス自身の歴史の中で読む」ことをお勧めしたい。

(聞き手:塚田紀史 撮影:今井康一 =週刊東洋経済))

ふわ てつぞう
1930年東京都生まれ。東京大学理学部物理学科卒業。鉄鋼労連を経て、64年から日本共産党中央委員会で活動。70年以後、書記局長・委員長・議長を歴任。2006年、議長を退任し、現職。69~03年衆議院議員11期。著書に『「資本論」全三部を読む』(全7冊)、『古典への招待』(全3巻)。


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