「荒川氾濫、銀座水没」は本当に杞憂なのか 荒川決壊の可能性はじわじわ増加している

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この問題はかなり複雑ではある。国交省の元永室長は「現在、対策の主眼になってきているのは、少なくとも住民の生命を守るとともに、社会経済の壊滅的な被害を回避すること。インフラ復旧に手間取って信用をいったん失ってしまうと、元に戻すのはまず不可能だからだ」と指摘する。

実際、1980年に世界第5位だった神戸港のコンテナ取扱量は95年の阪神大震災によって激減。新興国の港湾に押された面もあるが、2012年には世界で52位までランクを落としている。

木暮課長は「自治体側と対立してはおらず、こちらの事情を理解してくれてはいる。しかし、根本的な解決には大上段からの仕掛けが必要。国が腹をくくって、早い段階から住民の避難や危険地域への立ち入り禁止を進めたり、学校や企業を休みにさせる措置を講じるしかないのでは」と語る。

氾濫の恐れがあるとして経済活動を止めるのは、確かに難しい判断ではある。実際に決壊した場合に人命を守れたら話はある意味簡単だが、災害には「空振り」の例もままあり、そうした際に「損しただけじゃないか」との批判も出かねない。木暮氏はこうした実情を踏まえ、「空振りは容認しましょう」との世論が必要なのでは、と述べている。

「身の丈BCP」の効用

 ただ、企業社会の認識が薄いのも事実だ。東京商工会議所が昨年8月実施した会員企業向けアンケートによると、行政に求める防災対策(複数回答可)のうち、「インフラの耐震化」が67.2%、地震発生時の「帰宅困難者対策」が53.4%に達している。しかし、「水害対策」は16.5%。荒川が流れる城北地域では12.1%に過ぎない。

東商地域振興部の杉崎友則・都市政策担当課長は、この比率について「あまりにも低い。明らかに(問題自体が)知られていないのだと思う」とコメント。周知徹底の必要性を訴える。こうした活動の一環として東商の北支部が小規模企業向けに促している「身の丈BCP(事業継続計画)」策定に応じた会社を訪ねてみた。

足立区にあるナカザは従業員20人。荒川と、蛇行する隅田川に囲まれた「陸の孤島」にある3階建ての町工場だ。精密な金属加工には定評があり、主要顧客の自動車メーカーだけでなく、防衛産業にも部品を納入。ハイブリッド車向け燃料電池の筐体や注射針などの製造実績がある。

ナカザの近くを流れる荒川

坂本英樹ナカザ工場長は「東日本大震災以降、自動車メーカーは災害対応にシビアになっている。東商北支部の指導で作ったBCPを取引先に提示すると評価される」と語る。具体策として、取引データを専用業者に委託して関東数カ所にあるサーバーに分散したり、金型を標準化して自社以外のプレス機にも据え付け可能にして、他の工場に退避した場合でも創業を続けられるようにした。

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