「荒川氾濫、銀座水没」は本当に杞憂なのか 荒川決壊の可能性はじわじわ増加している
確かに冒頭の写真のように、決壊予想地点の河原の幅は広い。大放水路の整備では隅田川(旧荒川下流)との合流地点から河口までの22キロを、20年近くかけて新たに掘り進め、現在の荒川下流を作ったわけだが、まさに「100年の計」だった。場所によっては、東京側の堤防が二段構えになっている。ただ、万が一にも堤防が崩れたら、その後はゼロメートル地帯が広がっているのも事実だ。
河川氾濫は地震などとは違い、上流が豪雨に見舞われてから堤防が決壊するまで、ある程度の時間がある。こうした点から出てきたのが、災害発生前の3〜5日前程度を起点に、関係者が具体的な対策の中身を時間軸に沿って整理しておく「タイムライン(事前防災行動計画)」の発想だ。
米東部で2012年にハリケーン・サンディ襲来に伴いニューヨークで地下鉄への浸水や大停電が発生した際、上陸地だったニュージャージー州がタイムラインを採用していたことで、一定の効果があった。
これを受けて国や荒川下流域の東京都足立区、北区、板橋区は2014年8月に国内初のタイムライン策定を開始。検討会には東京地下鉄(東京メトロ)、NTT東日本、東京電力などのインフラ企業や地域の福祉施設なども参加して昨年5月に試行案を作った。
「地下鉄ジャック」で呼びかけ
続く9月1日〜15日に東京メトロは施工案の普及啓発のため、「地下鉄ジャック」を行った。銀座線や丸ノ内線など4路線を走る計8編成の電車にポスターを貼ったほか、つくばエクスプレスや埼玉高速鉄道も加えた計197駅に啓発ポスターを掲示した。
「広告主」だった国交省荒川下流河川事務所によると、「鬼怒川の大水害とタイミングが合ったこともあり、SNSではかなりの話題になっていた。他地域の河川事務所からも、問い合わせが数多くあった」。
また、東京メトロ安全・技術部の木暮敏昭・防災担当課長は、国交省のシミュレーション結果に応じて地下鉄網の浸水対策を見直していることを明らかにするとともに、「タイムライン検討会で、自治体と直接顔を合わせて議論できたことは大きい」と語る。その中で浮き彫りになったのは、決壊が予想される場合に地下鉄を止めるタイミングの難しさだった。
「現在のルールでは、避難勧告などが出れば電車を止めて止水措置を行い駅員も退避する。自治体からすれば住民避難のためギリギリまで電車を走らせて欲しいわけだが、われわれは公共交通機関なので水害後の早期復旧に向け、電車を浸水想定から外れた場所に移す必要がある。社員も死なせるわけにはいかない」からだ。
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