荒川詔四・ブリヂストン社長--かつてのラジアル化に続く大きな転換点が来た
ミシュランを抜いて久しいタイヤの雄も、100年に一度の経済危機には勝てない。2009年度上期は大幅な営業赤字に転落の見込み。厳しい経営を強いられている。
--自動車大不況の影響は。
新車用タイヤの落ち込みが大きい。新車タイヤは市場全体の2~3割で、残りはアフターマーケット、すなわち取り換え需要が占める。したがって、自動車メーカーに比べると業績の落ち込みも少ないはずだが、消費者心理がここまで冷え込むと話は違う。すり減ったタイヤでも、我慢して使う動きが世界的に起きている。この冬はお客さんが古いスノータイヤを持ってきて、「夏タイヤからこれにはき換えてくれ」という注文が多かった。初めての現象だ。
--ブリヂストン(BS)の09年の生産量は2割減の146万トン計画。8年前の水準に逆戻りですね。
自動車メーカーの販売見込みを堅く見積もって急激に生産調整しても実販はもっと落ち込んでいる、そんな状態が続いている。高い相場のときに買った天然ゴムの在庫を使って生産しており採算も非常に厳しい。原料相場の反落を受けた値下げ要求があるが、ここ数年のゴム高を製品価格値上げで吸収しきれていない中、とても下げられる状況ではない。
ただ、世界各地域から報告される取り換えタイヤ本数を見ると、底は見えたような印象を持つ。消費者の走行距離も同様。BSの在庫調整も遅くとも上期中には終わるだろう。
--はき換え需要が戻っても、割安なプライベートブランドや、コストコのような会員制倉庫型店舗で買える安いタイヤでいいという「ダウングレード」の動きがあります。
米国にはもともと30K、40Kといって「3万~4万マイル走れればいい」という人がいる。ただ、ここに来て世界的な需要構造の二極分化が起きている。強いこだわりを持つ層、中間層、品質やブランドにこだわらない値段重視の層と三つあるうち、中間層がぐっと小さくなり、特に下のほうが増えている。新興国を中心としたクルマの小型化が背景にある。タイヤへの関心は低く、スピードを出して走るわけでもない、最低限の機能があれば足りるといった感覚だ。一方のハイパフォーマンスや、ウルトラハイパフォーマンスといった高付加価値でぜいたく志向のタイヤも、すでに一定程度の市場シェアを獲得した。