荒川詔四・ブリヂストン社長--かつてのラジアル化に続く大きな転換点が来た
--BSは今後、どの層に重点を置いていくのですか。
基本的には全部やる。当社はタイヤ会社・ゴム会社として名実ともに世界一の会社になると掲げている。これが最終目標。「名」に当たるのが売上高でありタイヤの量だ。もし、下のゾーンをギブアップして上のほうだけとっていくのでは、言っていることと合わない。ただ、今までのやり方で利益を伴った商売をやっていけるかというと難しい。中国や韓国などのメーカーに加え、新興国も安値で参入してくる。まったく新しいやり方が必要だ。「実」の部分、品質も当然、妥協しない。売り切り買い切りで故障が起きてもクレームを一切受け付けないというようなやり方はBSの経営哲学には合わない。カギとなるのは革新的な技術が加わった商品の開発だ。
--ローエンドであっても、「実」を狙っていくのですか。
ローエンドであるからこそ。社長就任後に中央研究所を新設したのも、他社に圧倒的な差をつける基礎技術開発のためだ。当社の強みはそのレベルから経営のリソースを投入できる点にある。ようやく利益を上げている状態の会社、もっと小さい会社はそこまではできない。
原料生産も同じ。今の天然ゴムはノミナルな(名ばかりの)価格だ。今は誰も買っていない。BSも買っていない。それでいて今の値段(1キログラム150セント)がついている。今後、経済が回復したら各社の生産量は一斉に拡大するだろう。そうしたらさらにハネ上がるのか、それが怖い。天然ゴムはマーケットが非常に小さく、資金を少し入れただけでも相場がハネ上がる。ファンドから目をつけられやすい。原材料価格の安い時代がまた来るのかは不透明だ。
BSは現在、天然ゴム使用量の2割強を内製化している。原材料生産はキャッシュを生むところからいちばん遠い上流にある。投資には気をつけないといけないが、反面で競争力を高める源泉にもなる。天然ゴムはレアメタルのような「希少アグロプロダクト」。中長期的には需要が必ず供給を上回っていく。一方、地球上で生産できるエリアは少ない。環境問題を考えればジャングルを安易に切り開けない。(事業プロセスの川上と川下は収益性が高いという)スマイルカーブのいちばん端に到達できるので、さらに取り組んでいきたい。
原料を自分で作るがゆえに製品化まで見通した生産もできる。ともすると、原材料を作ること自体が垂直統合であると思いがちだが、私からすれば単に積み木を重ねただけの話。量が足らないから、あるいはコストが安いといった安易な考えで自社生産を進めると、下手をすると経済危機が来たときに固定比率が高い工場はひどい目に遭う。原材料工場から販売チャネルまでを徹底して活用する“真の垂直統合”を目指していく。結果として下のゾーンでも利益が出せることになる。