凡才の集団は孤高の天才に勝る 「グループ・ジーニアス」が生み出すものすごいアイデア キース・ソーヤー著/金子宣子訳 ~やり直しを重視する職場を作っていかねばならない
才能あふれる者と肩を並べたいと夢見る誰しもが、つい惹かれてしまうキャッチーなタイトルが付けられた本書は、創造的な活動が行われる環境について考察する。思い切ってまとめれば、いろいろな人とのかかわり合いの中で、絶え間ない試行錯誤を繰り返し、それを楽しめる者こそが、創造的なイノベーションを可能にするのであり、孤高の天才の閃きに見えるようなものも、実はさまざまな背景を持つ人々の議論や活動に多くを依拠しているという。
ここで挙げられる例は実にさまざまである。マウンテンバイクやボードゲームのモノポリーが、いろいろな人たちを経て次々に改良されて現在の形になったもので、誰が発明者かはっきりしないこと、『種の起源』を著したダーウィンのノートには、今から考えれば珍説でしかないアイデアが書き連ねられていたり、日本の経営学者の間ではかねて知られていたホンダのスーパーカブが米国でヒットした顛末など。
こうした成功例では、関係者がその仕事や活動に没頭していること、誰しもが水平的な関係にあることが重要で、管理者による指示や命令があると損なわれてしまうこと、他分野の人たちとの意見交換、交流が大切なこと、そして、なにより当初の目標に固執せず、失敗することを恐れないのが観察されるという。ゴールを設定して、計画的に進めようとすることは、却ってイノベーションの芽をそぐのだ。
しかも、創造的な成果のために少数の研究や仕事に集中すればよいかというと、それはどうも逆効果のようなのだ。過去のクリエーターの作品数を調べた研究によると、最も創造的な成果を出すときは、最も多くの作品を残しているときだという。いろいろと考える前にとにかくやってみる、ダメだったら理由を考えてやり直す、楽しいからどんどんチャレンジする、この繰り返しが大切なのだ。
しかし、どんな組織も程度の差はあれ、指示と命令を実行するヒエラルキーであるから、こうした創造的な活動とはなかなか相容れない。一方で、いろいろな人とチームを作ることが大切だとすると、創造的な活動を一組織の中で囲い込むというのは無理なのだろう。
以前、知人から聞いた話だが、就学前の子どもに「失敗するってどういうこと」と尋ねたら、積み木をイメージしたのか「やり直すこと」と答えたという。それから学校に通うようになると「ダメなこと」と言うようになった。やり直すことを重視する教育や職場を私たちはもっと作っていかなければならないのだと、改めて思った。
Keith Sawyer
ワシントン大学(セントルイス)心理学・教育学部教授。マサチューセッツ工科大学でコンピューター科学を専攻し、卒業。その後、コンピューターゲームの設計、経営コンサルタントを経て、シカゴ大学で再び学究生活に。心理学の博士号を取得。
ダイヤモンド社 1890円 362ページ
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