三越伊勢丹の苦渋、さらなる閉店を決定
ついに伊勢丹の店舗も閉店。5月12日、百貨店業界に衝撃が走った。業界最大手の三越伊勢丹ホールディングス(HD)が決算発表の席上、来年3月に伊勢丹吉祥寺店を閉店すると発表した。
若者の街として人気の東京・吉祥寺は東急百貨店、パルコ、丸井などがひしめく百貨店の激戦地。その中でも伊勢丹は、1971年開店の老舗店として、長年にわたり地元住民にも親しまれてきた。だが、新宿本店などの旗艦店と比べると中規模で商圏が狭く、「以前からの懸案だった」(野村証券金融経済研究所の正田雅史氏)。伊勢丹にとって都内店舗の閉店は、実に八王子店以来30年ぶりだ。吉祥寺店の閉店は、統合から1年を経た三越伊勢丹の苦境を如実に物語っている。
統合効果が見えず曲がり角の高級路線
三越の構造改革さえ終われば、収益力で業界断トツになる--。2008年の統合以来、少なくとも伊勢丹側はそう信じてきたはずだ。
三越伊勢丹HDの誕生は、勝ち組の伊勢丹が、負け組の三越をのむ形での統合といえた。そのため新会社でのリストラの対象は、三越の店舗が先だった。昨年9月には三越の不採算6店舗の閉店を発表。今年3月には宮城の名取店、東京の武蔵村山店など4店舗を閉店。5月には池袋店、鹿児島店を相次いで閉店した。中でも池袋店は半世紀もの歴史を持っていただけに、その幕引きは高い関心を集めた。
だが消費環境の激変もあり、三越伊勢丹の統合効果はいまだ見えてこない。今期の売上高は前期比で1割減、顧客カードや運営システムなどの統合費用がピークを迎え、営業利益はわずか20億円の見通しだ。業界2位のJ.フロント リテイリングが営業利益120億円、高島屋が同150億円を計画するのに対し、三越伊勢丹の収益力の低さが目立つ。もはや人手をかけて優良顧客に高単価品を販売する伊勢丹型の「高コスト・高粗利戦略」が曲がり角に差しかかったといえる。さらなる構造改革を迫られたことから、今回、伊勢丹の店舗を手放すという決断を下した。