新型インフル流行で顕在化、ワクチン増産の難題
季節性ワクチンは足りても、緊急的に全国民分の新型ワクチンを作ることは不可能だ。季節によりウイルスの流行が変わる非効率性に加え、日本では過去のワクチンの副作用による訴訟問題などが複雑に絡み合う。参入に二の足を踏むメーカーは多い。
また、製造にも時間がかかる。ウイルスを鶏卵に感染させる製法が用いられ、開発から実用化までは最短でも半年間。ワクチン1人分に1~2個の有精卵が必要で「全国民分の製造には1年半かかる」(厚労省)という。スピードアップのため、新たな製法として細胞培養によるワクチンの研究開発が国内外で進んでおり、期間を8週間に短縮できると期待されている。
米国では2005年から、政府が大手2社の開発を支援してきた。日本でもUMNファーマ(横浜)が細胞培養のワクチンを開発中だが、秋田に建設中の工場は年間200万人の製造能力で、完成予定は11年。製造するワクチンも限られ、H1N1型には対応できない。
頼みの治療薬も万能ではない。世界的に使用されている抗インフル薬はタミフルとリレンザの二つで、5月現在、日本は約3000万人分を備蓄する。しかし抗インフル薬には、抵抗性を持つ耐性ウイルスが発生して効き目が鈍くなるリスクもあるため、薬の選択肢は多いに越したことはない。
ヒト型へ変異進む 新型ウイルスの脅威
世界的な感染拡大で豚インフルばかりに目が向けられているが、「本当に怖いのは、強毒性の鳥インフルH5N1の変異であることに変わりはない」と専門家は口をそろえる。WHOが新型インフルの最有力候補として警戒するのは、鳥インフルのH5N1型。すでに日本でもH5N1型のパンデミックを想定し、対策マニュアル作成や、流行時の感染拡大・予防を目的としたプレパンデミックワクチンと治療薬を備蓄している。