博士にまでなったのに、なぜ報われないのか 当事者に聞く「ポスドク問題」の根深さ

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まずは、日本企業が依然として入社年次にこだわる「文系社会」である点だ。「日本の会社は商社や銀行など『商売』をルーツとしており、理工系の会社でも入社年次で評価されやすい。しかし、博士号を取った人などはそれなりの技術を持っている自負があり、そうした扱いに反発しがちだ」と語る。技術を正当に評価できる経営陣が不在の企業も多いという。

一方で「研究者側にも問題がある」と倉本氏は指摘する。1995年施行の第1次科学技術基本計画に沿って博士を増やす政策が進められたのとは裏腹に「少子高齢化で大学のポストが減り、准教授以下は3〜5年の任期制になった。その上はしがみついて辞めない。博士号を取った後に永続的な職に就くのはほとんど無理」なのだが、それでもアカデミズムへのこだわりが強すぎるのだ。米国のように研究者がベンチャーを起業する例は、まず望めないようだ。

「技術者のデータベースを作りたい」

倉本氏は、C&Rで手掛ける研究員と企業との仲介事業と並行して、「『この技術であればこの人に聞けばピカイチですよ』というデータベースを構築したい」と語る。そうした意図で昨年9月に事業を開始、現在は「約150人の研究者を登録したが、人的ネットワークはその2倍ある。事業開始から1年で登録者を1000人に増やしたい」という。

博士号取得者は現在、年間1万5000人程度だが、その1万人以上は医療系だという。残りのうち、企業への就職を本気で考えているのが3000人程度と仮定すれば、登録者を1000人に増やせばかなり貢献できるとの読みだ。

関連して、倉本氏は「アップルのiPhoneは、もともとあった技術を寄せ集めた集大成だった。日本の電機メーカーは最初なめていたが、結局は負けた。そうした技術を集めて製品化できるようなプロデュースができないと日本はこれからダメになっていく」と語る。

日本では景気低迷や財政悪化に伴い、基礎技術に対する研究費がなかなかつかなくなっている。しかし、地味ではあるものの頑張っている研究者もいるはず。そうした人々を発掘して連携を進めることで、全体の技術力を底上げしようとの発想だ。

ポスドク問題は、政府が日本社会の人口動態や景気動向などを読み違えて高い目標を掲げたことで生じた。「失われた20年」で日本の科学技術の国際的な地位が低下したのは否定できない事実だが、先行きを悲観するのは簡単だ。しかし、現実を直視して歯止めを掛けることには、大きな意義があるのだ。

駅 義則 東洋経済オンライン編集部

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えき よしのり / Yoshinori Eki

1965年、山口県生まれ。1988年に時事通信社に入社し、金融や電機・通信などの業界取材を担当した。2006年、米通信社ブルームバーグ・ニュースに移ってIT関連の記者・エディターなどを務めた後、2015年9月に東洋経済オンラインのエディターに。現在の趣味は飼い主のない猫の里親探し

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