「年越し派遣村」後の生活保護、入りやすく出やすい合理的な制度設計を
生活保護の被保護人員が急増している。生活保護は憲法第25条「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」という生存権に基づき、生活保護法(1950年施行)により、生活費、住居費、教育費、医療費、出産費、葬祭費などが支給される。
生活保護は世帯ごとに支給される。被保護世帯と人員数の推移を見ると、92年度58万5972世帯、89万8499人を底に増え続けており、2009年1月116万8354世帯、161万8543人とほぼ倍増している。正月休みを挟んだ期間に、「年越し派遣村」がファクスで申請した生活保護申請が受理され、若者を含む全員に速やかに支給されたことから、生活保護は受けやすいのではないかという認識が広まり、申請者が急増している。
政府(厚生労働省)は生活保護を「最後のセーフティネット」と位置づけている。生活保護の前段階のセーフティネットである雇用保険や離職した人に対する融資制度などの拡充により、なるべく生活保護支給にまで至らない政策を採用している。
ただ生活保護では、生活費、住居費の支給だけでなく、社会保険料が事実上免除される(国民年金、国民健康保険、介護保険)うえ、医療費の自己負担がない医療扶助があるために、社会保険料や医療費負担に耐えかねた年金暮らしの高齢者が生活保護に移行する可能性も高い。
また、生活保護を受ける条件のあるはずの母子家庭の多くが生活保護を受けていない。生活保護への認識が高まるにつれて、母子家庭も申請する動きを見せると推測される。
こうしたことを見渡すと、生活保護の被保護人員はいずれ200万人を超える可能性が高いだろう。生活保護の現状と制度設計について考える機会が多くなるはずだ。
現場の運用と法律との落差
08年12月31日から09年1月5日まで、東京都千代田区の日比谷公園では「年越し派遣村」が開設された。不況で職と住まいを失う非正規労働者が増える情勢の中で、複数のNPO法人や労働組合などが組織したものだ。1月1日から10日にかけて、「年越し派遣村」からは232人が千代田区に生活保護申請を行った。全員がファクスによる申請であり、最短3日という短期間で全員に生活保護が受理されたことで、社会的な注目を集めた。