崩れた勝利の方程式 シャープが戦略大転換
電機各社が巨額赤字に見舞われる中、シャープが打ち出したのは大規模なリストラではなく、経営方針の大転換だった。
「日本の工場で作ったモノを海外にバラまくやり方が、今回のような状態(業績悪化)につながった。早急にビジネスモデルを変える」。都内で開いた経営方針説明会の席上、片山幹雄社長は語った。
これまでシャープは技術流出防止などの理由から、液晶事業は国内生産にこだわってきた。2004年に世界初となるテレビ用大型液晶パネルの専用工場を三重県亀山市に建設。割高な人件費などのハンデを背負いながら、最先端技術を結集した国内工場でアジアのライバル企業と真っ向から戦う姿は、日本の“ものづくり復権”の象徴として注目を集めた。
しかし、今後は液晶パネルの生産投資を海外に移す。しかも自社単独でなく、現地企業との合弁で展開する。合弁工場で作った液晶パネルの一部はシャープの液晶テレビにも使うが、工場立ち上げ時の技術支援やラインの運営・メンテナンス受託などのエンジニアリング業務に軸足を置く。社内に蓄積した生産技術そのものを商売にする戦略で、合弁工場へのシャープ出資比率を意図的に少なくすることで、投資金額を最小限に抑えるという。
堺工場が10月稼働
路線転換の引き金は、昨年からの世界経済激変と急激な円高だ。しかし根っこには、屋台骨を支えてきた液晶事業における産業構造の変化がある。
装置産業である液晶パネルは巨額投資が必要で、テレビ用大型液晶で競争力のある最先端の大規模工場を造るには、今や最低でも3000億円規模の投資が大前提。
一方、アジアメーカーの急激なキャッチアップで技術的な差異化要素は薄れ、テレビ用大型液晶も汎用化が著しい。巨額投資の回収は難しくなり、最先端工場を造って先行者利潤を享受し、それを原資にさらに新工場へ再投資するシャープ従来のビジネスモデルは成立しなくなったのだ。
しかし皮肉にも、従来型ビジネスモデルの集大成ともいえる大阪・堺市の巨大新工場の稼働が控える。堺は好況時の07年末に建設着工した同社最大のパネル新工場で、総工費は3800億円に上る。
昨年後半から急減したパネル需要は最悪期を脱し、10月にも堺新工場の稼働へ踏み切る。が、依然として需要の先行きは不透明感が強いうえ、パネルの大口購入先として新工場のパートナーになるはずだったソニーとの出資交渉も難航している。戦略転換を宣言したシャープだが、目の前には難題が迫る。
(渡辺清治 撮影:風間仁一郎 =週刊東洋経済)
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