『動的平衡』を書いた福岡伸一氏(青山学院大学教授・分子生物学者)に聞く

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--脳は幼児期がピーク……。

人間の脳は生まれてからだいたい1~2歳の間に神経回路のシナップスの連結数は最大値に達する。でも、そのときがいちばん賢いかというと、そうではない。そのあと強化された回路だけが生き残って、必要のない回路は死んでいく。それで人間というものができてくる。うまく消し去るものを消さないと脳が変になってしまう可能性もある。まず過剰に与えて環境によって刈り取らせるのが生命のパターンだ。

免疫の仕組みにしても、いろいろな外敵に戦えるように100万通りもの抗体の可能性をつくる。そのあと、自分自身に反応するような抗体は死んでいく。それが生き残ってしまうと自分自身を攻撃する抗体が残って、リューマチとか自己免疫疾患になってしまう。

--努力のしようがない。

いえ、私は遺伝子研究者だが、圧倒的に氏より育ちだと思う。氏、つまり遺伝子は可能性を与えているだけで、そのあと環境が刈り取って、必要なところを残し、不必要なところを捨ててくれている。また若いときのほうが刈り取りはよりスムーズにいくが、大人になってからは可塑性、あることを強化すれば長けるようになるというやわらかさは死ぬまで続く。

--若さに幻想を持ちがちですが。

20代がピークで下がっていくと考えがちなのは若さに対する幻想。動的平衡状態はなるべく坂を転がらないでおこうとしてがんばる。常に自分を作り変えて坂を転がりおちる速度を緩める。すべて秩序があるものは壊れていくというのが宇宙の大原則のエントロピー増大の法則なので、生物みたいに秩序の高いものは何もしなければあっという間にだめになってしまう。動的平衡状態は真逆にはならない。アンチエージングは無駄な抵抗であり、逆らわないことが自然な生き方といえよう。

(聞き手・本誌:塚田紀史 撮影:尾形文繁)

ふくおか・しんいち
1959年生まれ。京都大学卒。米国ロックフェラー大学およびハーバード大学医学部博士研究員、京都大学助教授を経る。2006年第1回科学ジャーナリスト賞受賞。著書に『プリオン説はほんとうか?』(講談社出版文化賞科学出版賞)、『生物と無生物のあいだ』(サントリー学芸賞)など。


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