兵庫・浜坂で”カニ ソムリエ”が大活躍、女将さんたちも猛勉強《特集・日本人の旅》

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兵庫・浜坂で”カニ ソムリエ”が大活躍、女将さんたちも猛勉強《特集・日本人の旅》

大阪から特急を乗り継ぎ約3時間半。鳥取県と接する兵庫県新温泉町・浜坂温泉。ここの浜坂漁港で行われるセリには、女性“ソムリエ”の姿が多く見られる。

ソムリエといっても、ワインではない。浜坂名物・ズワイガニのすべてを知りつくした「カニソムリエ」なる資格を持つ女性たちだ。これは、浜坂観光協会の主導によって創設された同地区の資格。長年、知名度向上に腐心してきた浜坂自身が繰り出した“切り札”だ。

浜坂漁港は全国でも有数のマツバガニ(ズワイガニ)の水揚げ量を誇るが、「カニのハサミに水揚げ港のタグを付けていても、切られて福井県の越前ガニなどと名前を変えて売られてしまう。これほど悔しいことはない」と浜坂観光協会の加藤好顕広報宣伝部長は言う。民宿を経営する加藤氏もカニソムリエの一人だ。

実際に、浜坂近隣の兵庫県や京都府でもカニや温泉を売り物にする地域は多い。また「関西の日本海側では城崎温泉(兵庫県)が知名度、人気ともには断トツ」(旅行会社関係者)だ。

浜坂でもこれまで、マツバガニ漁が解禁される11月には「カニ祭」、4月には「ホタルイカ祭」などのイベントで、それなりの集客をしてきたが、どうしても恒常的な観光客数増や知名度向上にはなかなかつながらない。そこで、「マツバガニの本場として、どこもやっていないことをやるしかない」と考えた浜坂観光協会が打ち出したのが「カニソムリエ」だった。

資格を創設したことで旅館・民宿間に連帯感も

「ソムリエ」としたのは、ワインのソムリエが、そのワインの味や産地だけでなくブドウが収穫されたときの天候まで知っているように、カニだけでなく浜坂のすべてをよく知るべき」(加藤氏)との思いからだ。

2007年10月に初めて誕生したカニソムリエは現在37人。旅館・民宿の女将(おかみ)や経営者が中心だ。05年から資格を取るための講習を20回以上も受け続け、試験は100点満点中80点以上という難関を突破、見事「ソムリエ」の称号を勝ち取った。

「数多い観光地の中で(浜坂に多い)小さな旅館・民宿が勝ち残っていくためには、“おもてなしの心”が大事」と加藤氏は言う。新鮮なカニをその場で食べてもらう以外にも、浜坂が持つ魅力をフル動員した“おもてなし”こそが、カニソムリエというプロの名にふさわしい。だからこそ、資格取得はそれなりの努力が求められるということだ。

実際、カニソムリエになるためには広範囲な講習が待ち受けている。漁船に乗り込んでのカニ漁見学やカニの見分け方は当然として、「接客マナー」や「温泉の効用」といった直接的な講習から、「但馬牛について」「郷土史」「山陰海岸の学術的価値と景観の魅力」といったものまで、項目は多岐にわたる。

このような講習になったのは、「観光業界の裾野は広い」(加藤氏)ため。浜坂はカニ以外にもホタルイカやハタハタといった水産物のほか、但馬牛や農産物でも特産品を持つ。また、京都府・京丹後市から鳥取市までの海岸線で見られる世界でも有数な地質遺産を保全・活用する「山陰海岸ジオパーク」構想も進行中だ。そのため、一部の特産品だけでなくすべての特産品を知ってもらうことが、ひいては町全体の底上げにつながり、観光業が発展すれば、地域の誰もが受益者になる。

資格を設けたことで、観光業関係者の自己研鑽も進み、旅館・民宿間の連帯感も培われるという思わぬ副産物も生まれた。08年6月には「カニソムリエの会」が結成されるなど、漁協や農協、行政などと一体となった取り組みも行われている。

人口約1万人の観光地から発信された動きは徐々に浸透。08年中ごろからメディアの取材が殺到しており、観光客全体の6割を占める関西地方を中心に知名度が急上昇している。「宣伝的にはひとまず成功した」と加藤氏は評価する。だが、このままではやがて質は低下し、客に飽きられる可能性もある。

そのため、09年10月からはカニソムリエからの選抜試験を行い「シニア(上級)カニソムリエ」の資格を創設する予定。究極的にはスペシャリスト中のスペシャリストである「ゴールド」資格まで設け、質の向上を図る。ゴールドカニソムリエが誕生すれば「浜坂だけでなく、丹波地域全体の人的財産」(加藤氏)になり、地域全体の底上げにもつながる。

カニソムリエ誕生からまだ2年。浜坂を含む新温泉町への観光客数も、この数年は130万人前後、うち宿泊客は約2割で横ばい。最近も、目立って増えているわけではない。当面は「カニ祭」などのイベントに加え、最大市場である首都圏での知名度向上に全力を挙げるという。カニソムリエ取得者も、現在の旅館・民宿関係者から鮮魚店やタクシー運転手などに職種が広がりそうだ。

観光は「6次産業」と称されることがある。農林水産業の1次、製造業の2次、サービス業の3次を足すと成り立つという意味だ。そして、四季型の観光地として生き残るためには、行政や旅行業者任せではない、地元自らつくり上げる新たな取り組みが欠かせない。兵庫県の小さな観光地から始まった取り組みは、その一つの解になるのかもしれない。

(週刊東洋経済)

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