全国規模の観光キャンペーンの舞台裏、JRと地元がタッグを組んで仕掛ける《特集・日本人の旅》
「準備はまさに今、佳境です」(新潟県観光協会の桑原光矢常務理事)。
新潟県は今、「デスティネーションキャンペーン」の開催に向けた準備に忙しい。デスティネーションキャンペーン(以下、DC)とは、JRグループ6社と自治体が共同で実施する観光誘致のキャンペーンだ。期間中は全国の駅に何枚ものポスターが張られ、そのエリアが集中的に宣伝されるほか、旅行会社各社もそれに合わせて商品を企画する。
開催地は3カ月ごとに変わり、今年10~12月に順番が回ってくるのが新潟県というわけだ。本番はまだ半年以上も先だが、実は準備は1年以上も前から始まっている。全国で繰り広げられる大規模宣伝によって、訪れる大勢の観光客をしっかり迎え入れることができるよう、開催地は県を挙げて取り組むのだ。
DC開催地は立候補制 6社の共同会議で決まる
JRグループ6社にはそれぞれ、「青春18きっぷ」「フルムーン夫婦グリーンパス」など、グループ共通商品の販促を担う部門がある。DC開催地を決めているのも、この共同宣伝担当者の会議体だ。毎年11月ごろから各社が候補地を持ち寄り、3年後の開催地を決める議論が始まるが、今年も間もなく、2011年度の開催地が決まろうとしている。
JR東日本では最近、1シーズンにいくつもの自治体から立候補があるという。新潟も、昨年10~12月に開催した宮城も、同4~6月に開催した山梨もすべて自治体側から「やりたい」と手が挙がったところだ。「以前のDCは、内容も旅行会社からの提案が中心で、集中送客を目的とした発地型のキャンペーンだったが、最近は地域が主体となって、地域の魅力を全国に売り出そうというキャンペーンに変わってきた」(JR東日本鉄道事業本部営業部観光開発課の森崎鉄郎課長)。
従来型のキャンペーンだと、開催年の観光客数は増えても、翌年に反動が来る。地元に観光誘致のノウハウが残らないためだ。だが、たとえば05年7~9月に開催した福島・会津の場合、地元の人材がリーダーシップを取り、観光資源を掘り起こした結果、その後、06年も07年も観光客の数は右肩上がりに増えていった。今でも会津では、DCで実施した取り組みを改善し、継続しているという。
ところで、数多くの候補地の中から、開催地に選ばれるのはどのような地域なのか。それは、候補地を携えて出席する6社の会議で、担当者がいかに説得力を持ってプレゼンテーションできるかにかかっているようだ。「宮城も千葉(07年2~4月)も、初めての開催ということが武器になった。それに、新線開通も売りになる。北東北DCのとき(03年4~6月)は、前年12月に東北新幹線はやてのデビューがあった」(森崎氏)。また、今年の新潟は、04年に多数の死者を出した中越大震災から5年、「節目の年に、復興した姿を全国の人に見てもらいたい」という地元の思いが、大きな説得材料になったという。