ポトスライムの舟 津村記久子著

拡大
縮小
ポトスライムの舟 津村記久子著

女性契約社員ナガセの身辺事情が、奈良の古い自宅(時に工場も)を舞台に綴られる。家出して転がり込んできた友人親子、世界一周をめざして貯金に励みながらいつも気になる通帳の数字、風邪で会社を休む彼女が見る夢と、穏やかな展開が続いて事件と言うほどのことも起きない。

とはいえ随所に現れるアヤと機微が温もりを生んでいる。芥川賞作品でこの淡々とした味わいは貴重である。重苦しいはずの社会の底辺近くでのささやかな楽しみや悩み、時に不条理に、しかし結局は日常を受け入れていく心理描写はさわやかで、友達のためになけなしの貯金をなんとなく使ってしまうあたりは秀逸だ。ただしナガセと友人のヨシカの名をカタカナにしたのは功罪相半ばの感がある。

ポトスライムは主人公が育てる観葉植物で、空想の舟とともに温かな生命力と夢の象徴だろう。併載の「十二月の窓辺」は女性上司のパワハラに翻弄される女性の心理を描く。(純)

講談社 1365円

Amazonで見る
楽天で見る

関連記事
トピックボードAD
マーケットの人気記事
トレンドライブラリーAD
連載一覧
連載一覧はこちら
人気の動画
日本製鉄、あえて「高炉の新設」を選択した事情
日本製鉄、あえて「高炉の新設」を選択した事情
ヤマト、EC宅配増でも連続減益の悩ましい事情
ヤマト、EC宅配増でも連続減益の悩ましい事情
倒産急増か「外食ゾンビ企業」がついに迎える危機
倒産急増か「外食ゾンビ企業」がついに迎える危機
日本の「パワー半導体」に一石投じる新会社の誕生
日本の「パワー半導体」に一石投じる新会社の誕生
アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • シェア
会員記事アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
トレンドウォッチAD
東洋経済education×ICT