AIに読解力があると思う人に知ってほしい現実 学生の新常識は「シンギュラリティ=黒歴史」だ

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「AIの限界」を理解し始めた学生たちの新常識は「シンギュラリティ=黒歴史」だ(写真:metamorworks/iStock)
「AI(人工知能)が進化して人類を支配する」「AIが人の知能を超える『シンギュラリティ』が2030年に到来する」といった誤解に対して、警鐘を鳴らしてきた新井紀子氏。
2018年に刊行した著書『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』でも、AIの可能性と限界を明らかにしてきた。ただ、2018年当時、大学院生に対しても「AIの限界」を理解させることは困難だったという。一方、最近になって大学院生たちは「AIの限界」をすんなりと理解し始めた。学生たちにどのような変化があったのだろうか。

シンギュラリティ神話が信じられていた2018年

私が所属している国立情報学研究所は研究機関である。一方で、総合研究大学院大学という大学院に特化した教育機関の一翼も担っている。不肖この私も一大学教員として教壇に立つことがある。といっても、今年はコロナ禍のせいですべての講義はオンラインだが。

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この春受け持ったのは「メディア概論」。画像処理、音声処理、音声合成といった人工知能技術について、10人を超える研究者が自らの属する専門領域の理論や技術動向を紹介するオムニバス講義だった。

この講義は毎年開講され、人工知能技術を本格的に学び始める大学院生へのイントロダクションとして位置付けられている。私は、自らが率いた「ロボットは東大に入れるか(東ロボ)」と呼ばれる人工知能プロジェクトを紹介しつつ、深層学習(ディープラーニング)が代表する第三次AIブームを牽引した大規模データを用いた統計的手法の可能性とその限界について、例を引きながら解説することにしている。

2018年まで、学生に統計的手法の限界を理解させることは極めて困難だった。メディアやSNSにはシンギュラリティの言葉が躍っており、彼らがフォローするような「エヴァンジェリスト」や「フューチャリスト」、あるいは大学教員でさえ真面目に2030年のシンギュラリティ到来を熱っぽく議論していた。政府の白書ですらシンギュラリティに言及した。

学生たちがその言葉を信じ込まないほうがおかしい。AIがなぜ間違えざるをえないかを、どんなに理論的かつ具体例を挙げて解説しても、学生は「もっとデータがリッチになり、深層学習技術が進化すれば乗り越えられる課題だ」とコメントシートに書いて寄こした。

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