「女装おじさん」の旅日記に秘められた思い

紀貫之は何を思って「土佐日記」を書いたのか

高知から京都までの旅日記『土佐日記』のページをめくる(写真:ばりろく / PIXTA)

最近、新幹線で移動することが増えた。金曜日の夜の車両はいつも人でごった返し、しわくちゃになった黒スーツのサラリーマンがいっぱい。コンビニで買ってきた缶ビールをプッシュ、長い1日を終えてやっと一息。電車が動き出して10分ほど経つと、口を開けて軽いイビキをかいている人も少なくない。

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その光景を見て、「今週もお疲れさまでした」と優しく言ってあげたい気持ちになる。

仕事のため、戦争のため、家族のため……歴史をひもといてみると、いかなる時代においても人はずっと移動し続けてきたことがわかる。そして、そんな旅の様子が、文学にもよく出てくる。

いきなり「女装」して登場!

日本初の日記文学とされる『土佐日記』も、高知から京都までの長い旅の記録だ。55日間もかかったその旅は、有名なあの一文で幕が開ける。

男もすなる日記といふものを女もしてみむとてするなり。
【イザ流圧倒的意訳】
男の人が書くらしい日記というものを、女のわたしも書いてみるわ!

 

「わたしは女なのよっ!」としきりにアピールしているが、作者は、当時の読者も現在の読者も知ってのとおり、あの紀貫之だ。平安時代の文学界においてかなり名を馳せた人物だが、『古今和歌集』の選者だったことと、初めての歌論とされている『仮名序』を書き残したことが、彼の最も大きな功績とされている。

そんな文学界のプリンスが、60代にもなって、なぜいきなり紙上での女装を試す気になったのだろうか? その記念すべきカミングアウトの理由は、『土佐日記』の中にしっかりと隠されている。ただの退屈しのぎだったのか、それとも長年心の奥底にしまっていた秘密だったのか、その謎を探るべく、長い船旅の様子が描かれた『土佐日記』のページをパラパラとめくりたい。そして、理由は何であれ、本人が女になりたがっていたそうなので、名前から1文字をとって、ユキコ婦人と呼ぶことにする。

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