太陽電池に賭ける日本の電機業界、惨敗のデジタル家電から急シフト
プラントや発電もやる! シャープの大転換
昨年後半からの金融危機で、最大市場の欧州では投資ファンドなどによる太陽光発電設置計画の延期・凍結が続出し、昨年途中までの「作れば売れる」状況から一変。品質、長期信頼性で実績の乏しい新規参入組ほど、需要減退の影響をモロに被っている。アジア企業を中心に早くも事業存続の危機に見舞われている企業も少なくない。
「長年の実績で確立した品質、信頼性のアドバンテージを生かしつつ、あとは持ち前の技術力を武器に大幅なコストダウンを早期に実現できるかどうか。その課題をクリアできさえすれば、日本勢が世界の第一線に残れるチャンスは十分ある」(渡辺氏)。
日本の太陽電池産業の未来を占う意味でも、大きなカギを握るのが、長く世界でトップを走ってきたシャープの動向だ。
今秋に稼働する堺の新工場は、薄膜方式と呼ばれる次世代型の太陽電池を生産。シリコンの塊をスライスして作る従来の太陽電池とは違い、液晶と同様に薄いガラス基板にガス状のシリコンを積層して作る。生産の難易度は高いが、高価なシリコンの使用量や生産工程数が極端に少ないため、「大規模量産が軌道に乗れば、劇的なコストダウンが実現できる」(シャープの濱野稔重副社長)。
同社は、薄膜太陽電池のコストや変換効率を左右する「プラズマCVD」と呼ばれる膜形成装置も開発。その独自装置を使った最先端の堺新工場を薄膜太陽電池のモデル工場と位置づけ、10年以降は同様の工場を海外にも展開していく方針だ。
薄膜太陽電池の巨大工場で一気に反撃を仕掛けるシャープだが、もう一つ注目すべきは同社の描く新たなビジネスモデルだ。シャープは昨年11月、イタリアの電力会社大手・エネルと全面的な提携を締結。欧州に合弁の太陽電池工場を造るうえ、エネルとの合弁会社を通じて共同で太陽光発電所を展開することを正式に発表した。太陽電池メーカーだったはずのシャープが、実際の発電事業にも踏み込むというのだ。
「うちは何も、太陽電池のパネル製造だけを考えているわけじゃない」と町田勝彦・シャープ会長兼CEO(最高経営責任者)は言う。「材料に始まり、製造装置、太陽電池パネルの生産から、ソーラー発電所のプラント建設やメンテナンス、実際の発電事業に至るまで、太陽光発電に関するありとあらゆる商売をやる。従来の製造業の枠組みを超え、バリューチェーンのすべてにビジネスの領域を広げる」。日本企業らしからぬ大胆な転換である。
その背景にあるのは、半導体や液晶での苦い教訓だ。いずれも当初は日本企業が技術面で大きく先行しながら、結局は投資力のある韓国・台湾勢にキャッチアップされ主役を奪われた。しかも、欧州バブルに沸いた太陽電池業界はまだ本質的な競争を経ておらず、これから本当のコスト競争時代に突入する。「業界内での生き残りだけでなく、既存エネルギーとのコスト競争にも勝つ必要があり、これから先は太陽電池の製造だけで儲かるほどは甘くない。その意味でもトータルで儲けられる仕組み作りが必要だ」(町田会長)。
今、世界各国が取り組む「グリーン・ニューディール」の正体は、要するに新エネルギーにおける輸出型製造業の育成競争である。日本がそこで最も有利な位置にいる産業が太陽電池だ。大競争が始まる中、シャープを筆頭とする“日の丸”太陽電池は、新規雇用を生む21世紀型産業へ変貌できるのか。それとも、またしてもデジタル家電と同じ道を歩むのか。その浮き沈みは、日本経済全体の命運をも左右する。
(週刊東洋経済)
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