マツダのデザインはなぜカッコ良くなったか そのヒントは地上最速の動物にあった

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魂動と書いてKODOと読む、一風変わったこの言葉は、クリエイターとしての意志を表す「魂」、マツダのDNAとして「動」を選び、そこにハートを揺るがす「KODO」を組み合わせたものだ。日本のブランドなので日本語にすることは最初から決めていたが、まとまるまで約1年掛かったという。

チーターの美しい走りをベースにデザイン

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チーターのオブジェ。さっそうと走る姿が想像できる

数年前、広島にあるマツダ本社のデザイン本部を訪れたときのこと。エントランスに置かれた動物の彫刻に目が行った。陸上で最も速く走る動物として有名なチーターだった。その後、ほかの展示でもこのチーターを目にした。

時速100km以上で走るとされるチーターが、高速で走っているシーンは美しい。その美しさの源は骨格にあると前田氏は考えた。顔、背骨、足など、1つひとつの軸がどう動いているかを検証し、それをベースにデザインを進めていくことにした。ボディを眺めただけで骨格がわかるような造形を目指したのだ。

クルマは「愛車」と呼ばれるぐらい人間に近い存在だ。でも生命感のある動きを与えないと人間に近い存在にはならない。冷たい金属を暖かそうに見せるには、動物が持つ張りなどに近づけることが必須となる。その点も自然界の生き物に注目した理由だと前田氏は語った。

もうひとつ、景観との兼ね合いも考えた。カーデザインが景観に与える影響は大きい。周囲から浮いた存在になってはいけない。だから景色を作る一員として、自然界で生きる動物を目指したのだという。モビリティとまちづくりの関係まで頭に入れていた。

同時に前田氏は、日本らしさも意識している。といっても、漆や和紙の風合いを参考にしたわけではない。日本らしい美意識の根幹にある空気感、たとえば凛とした雰囲気などを、造形に反映していった。

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日本らしい空気感を造形に反映した「靭」は、世界各地のモーターショーで絶賛された

その結果生まれたのが、2010年に発表されたコンセプトカー「靭(SHINARI)」だった。すでにCX-5や現行「アテンザ」のデザインはスタートしていて、その方向性を世に問う意味も込めたモデルだった。

「靭」は世界各地のモーターショーで展示された。大絶賛だった。それまで魂動デザインに懐疑的だった人たちも、一気に自信をつけた。「社内に風が吹いた」というほどの転換点だった。こうしてマツダはCX-5を皮切りに新世代商品を次々に送り出し、ヒットにつなげることができた。

ただデザイナーがいくら美しいラインを描いても、生産現場がそれを拒絶すれば文字どおり「絵に描いた餅」である。その点マツダは恵まれていた。現場の人たちも「じゃあやってみようか」と、試行錯誤を重ねながら美しい形をモノにしてくれたからだ。

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