マツダのデザインはなぜカッコ良くなったか そのヒントは地上最速の動物にあった

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たとえばロードスターでは、軽量化のためにフロントフェンダーを初めてアルミ製としたが、鉄と同じように曲げていくと割れてしまうので、1年間かけてじっくり形を出していったという。チーフデザイナーの中山雅氏は、「マツダのエンジニアはピンチになるほど力を発揮する方が多い」と、その時の状況を語っていた。

同じチーターでも、モチーフにする「瞬間」を変える

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魂動チェア(左)と「靭(SHINARI)」のオブジェ。同じように見えるが、奥は獲物を見つけて飛びかかる瞬間をモチーフにしたデミオのオブジェ

骨格が決まれば安泰というわけでもない。車種によってカテゴリーやサイズが違うので、単純なコピー&ペーストでは不格好になってしまう。

そこでアテンザよりひとクラス下の「アクセラ」では、前後フェンダーの峰をタイヤの中心よりもドライバー側に寄せることで、より安定感を出している。さらに小さなデミオでは、体を伸ばしきって疾走する姿を参考にしたアテンザに対し、獲物を見つけて飛びかかる瞬間を描いた。同じチーターでも、モチーフにする瞬間が違うというわけだ。

インテリアも車種によって変えている。車格的に上級となるCX-5やアテンザは質感を重視したのに対し、アクセラ以降はスポーティ感を追求しており、運転席はドライバーを中心とした軸を感じるレイアウトとしてドライビングポジションへのこだわりもアピールしつつ、助手席側は広がり感を表現するという造形を導入している。

今後の魂動デザインはどういう方向に進むのか。ヒントは昨年秋の東京モーターショーに展示されたコンセプトカーRXビジョンにある。自らフォルムを描いた前田氏が「魂動デザインの第2ステージ」と語っているからだ。

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魂動デザインの第2ステージ、RXビジョンは骨格ではなくインナーマッスルを見せる造形

具体的には、従来の魂動デザインがリズムで作ってきたのに対し、RXビジョンはリズムを表に出さず、要素を減らし、光でリズムを作った。そのために照明のデザインまで関与したそうだ。骨格そのものではなく、インナーマッスルを見せる方向の造形だという。

でも今後の魂動デザインがすべて、この路線になっていくわけではない。RXビジョンで用いたテクニックはあくまで「引き出しのひとつ」だそうで、ほかにもさまざまな構想を抱いているとのこと。それらをブレンドしながら進化させていくことになるらしい。まだまだ成長が期待できそうな魂動デザイン。しばらくは、われわれの目を楽しませてくれそうだ。

森口 将之 モビリティジャーナリスト

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もりぐち まさゆき / Masayuki Moriguchi

1962年生まれ。モビリティジャーナリスト。移動や都市という視点から自動車や公共交通を取材。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。著書に『富山から拡がる交通革命』(交通新聞社新書)。

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