「都市鉱山の開拓者」を襲った死亡事故の裏側 DOWAの銀粉工場で何があったのか

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DOWAは2006年、持株会社制に移行し、5つの事業部門を別会社化した。子会社として設立されたDOWAエレクトロニクス、DOWAメタルテックがそれぞれ電子材料、メッキ加工事業を担い、その両社が折半出資して生まれた生産会社が、今回事故を起こしたDOWAハイテックだ。持分本社から見れば、孫会社となる。

孫会社のDOWAハイテックは、経営単位の細分化で迅速な意思決定が可能になる反面、生産技術・研究機能は持株本社直轄のDOWAテクノロジーに集約された。孫会社にすれば、ただでさえ高い本社・技術部門の敷居がいよいよ高くなったであろうことは、想像に難くない。

しかも、ニッチ・トップの銀粉部門は旺盛な需要に応えるべく、ここ4~5年で能力を3倍に拡大した。ただしDOWAハイテック全体としては、人員は横ばいのまま。この間、負担が強まる現場と、高度な知見を持つ本社の技術・研究部隊が、緊密かつ率直な連携プレイを実現できていたのかどうか、が疑問である。

本庄工場はすべてのライン停止

秋田県の小坂銅山を発祥とするDOWAは、小坂銅山に特有の「黒鉱」に鍛えられてきた。黒鉱はメインの銅の品位は低いが、金や銀の含有量が多い。多様な貴金属を抽出する製錬技術に磨きがかかり、その技術がDOWAを「都市鉱山」(基板や電子部品から貴金属を回収する)産業のパイオニアに押し上げた。DOWAハイテックの工程排水から銀を回収するプロセスも、この伝統とイノベーションの系譜の中にある。

だが、3日の事故以来、排水からの回収プロセスだけでなく、本庄工場のすべての操業が止まっている。どころか、捜査上の「事故現場の現状保全」のため、社員の工場立ち入りもままならない。

ちょうど2年前の1月、メンテナンス中に熱交換器が爆発した三菱マテリアル・四日市工場。やっと操業再開にこぎ着けたのは半年後だった。

DOWAホールディングスの電子材料部門の経常利益は2014年度96億円。この3分の1近くをDOWAハイテックが稼ぎ出していたと見られる。持株本社の経営陣は今、「安全こそ最良の投資」という、言い古された、しかし、決して古びることのない警句を改めて噛みしめているはずである。

梅沢 正邦 経済ジャーナリスト

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うめざわ まさくに / Masakuni Umezawa

1949年生まれ。1971年東京大学経済学部卒業。東洋経済新報社に入社し、編集局記者として流通業、プラント・造船・航空機、通信・エレクトロニクス、商社などを担当。『金融ビジネス』編集長、『週刊東洋経済』副編集長を経て、2001年論説委員長。2009年退社し現在に至る。著書に『カリスマたちは上機嫌――日本を変える13人の起業家』(東洋経済新報社、2001年)、『失敗するから人生だ。』(東洋経済新報社、2013年)。

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