シャープの命運を握る鴻海と二つの銀行
一方、前述のように鴻海グループによるシャープ本体への669億円の出資は実施されていない。シャープの株価が「550円」から大きく落ち込んだからだ。当初条件どおり出資すれば、その瞬間に鴻海は巨額の含み損を負うことになる。
再交渉では、「シャープは『9・9%』を頑として譲らない」(関係者)。取引先や消費者の心象などを慮って、鴻海グループからの出資比率を10%以下に抑えたいというのがシャープ側の意向だ。
そこで2社は、出資価格の条件を1株200円以下へ引き下げる方向で協議している。元の計画より調達額は400億円以上減少するため、取引先に対する劣後債などの発行や、鴻海への海外工場売却などで賄う案も出ている。
それでも有利子負債の圧縮には到底足りない。旗艦の液晶パネル事業を立て直し、収益体質を回復させる必要がある。大口需要家である鴻海の協力なしには難しい。
郭董事長は今のところシャープとの関係強化に積極姿勢を崩していない。赤字を垂れ流しているシャープだが、蓄積してきたデバイス技術に魅力を感じているからだ。
たとえば、アイパッド用にアップルに納入している中型のIGZO液晶。高精細と低消費電力を兼ね備えた新型パネルであり、韓国サムスン電子やLG電子は製品化できていない。アップルはタブレット端末の次期モデルで、IGZO液晶を本格搭載したいとの意向を示しており、先行するシャープはファーストサプライヤーになれる可能性が高い。鴻海にとっても垂涎の技術である。
また、鴻海は13年、成都に同社初の本格的な液晶パネル工場を新設するが、この工場の稼働支援にシャープ技術者の派遣を要請している。
しかし、シャープの業績悪化が甚だしければ、その判断が変わる可能性もある。郭董事長の動向を、主力2行も注視している。
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(前野裕香 撮影:梅谷秀司 =週刊東洋経済2012年8月25日特大号)
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