鉄道員の「英語力」はどこまで通用するのか 二子玉川では独自プロジェクトが進行中

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二子玉川駅のプロジェクトチームのメンバーたち

3人とも英語の達人ではない。学生時代に勉強した程度だ。それだけに、最初は外国人に質問されると、あたふたしてしまった。

「忘れ物をした外国のお客様がいらしたとき、その内容を聞き出すことができず、くやしい思いをした」(吉田さん)

外国人に定期券の区間変更について説明するのも、かなり難易度が高いという。会社の英会話レッスンに加えて、業務の合間に「おもてなしボード」を使ったロールプレイングの練習を積み重ねて、今では多くの局面で英語の対応ができるようになった。

目代さんがこんな体験を語ってくれた。深夜23時30分ごろ、改札口に外国人客がやってきて「どうしても明日、成田空港から朝イチの飛行機に乗りたい」と言われた。さすがにこの時間では、成田に向かう電車もバスもない。かといって、明日、二子玉川から始発の電車やバスに乗っても、その便には到底間に合わない。

二子玉川から成田までタクシーを使うしかないか――。そのとき思いついたのが、田園都市線から直通運転でつながる東京メトロ半蔵門線・水天宮前駅にある東京シティエアターミナル(T-CAT)の存在だった。

水天宮前までなら、この時間でも電車が走っている。「水天宮前付近のホテルに泊まって、翌朝にT-CATからリムジンバスに乗れば間に合います」。パソコンで検索して、水天宮前駅付近のビジネスホテルも案内した。この外国人は大変喜んで改札を出ていったという。

車内アナウンスにも改善の余地

この3人を中核に、プロジェクトチームのメンバーは現在7人。活動を職場全体に広げるのが目標だが、忙しい駅業務の合間を縫っての取り組みだけに、なかなか思うように進まない。急増するインバウンド需要に駅係員の語学力が追いついていない現状が見えてくる。

駅だけではない。東京を訪れる外国人の中には「車内アナウンスで何を言っているのか知りたい」という声もある。列車が止まってしまったときなど、言葉がわからないと不安に違いない。だが現時点では、車掌が英語で臨機応変にアナウンスできるという状況にはほど遠い。

JR東日本は主要駅の係員や乗務員にiPad miniを配布しており、外国人客との対話には翻訳アプリが威力を発揮している。ほかの鉄道会社でも、タブレット端末の導入や駅構内表示板の多言語化を進めている。

駅員の外国語力アップは一朝一夕にはいかない。当面は最新機器の力も借りながら、やり繰りしていくしかなさそうだ。

大坂 直樹 東洋経済 記者

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おおさか なおき / Naoki Osaka

1963年函館生まれ埼玉育ち。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。生命保険会社の国際部やブリュッセル駐在の後、2000年東洋経済新報社入社。週刊東洋経済副編集長、会社四季報副編集長を経て東洋経済オンライン「鉄道最前線」を立ち上げる。製造業から小売業まで幅広い取材経験を基に現在は鉄道業界の記事を積極的に執筆。JR全線完乗。日本証券アナリスト協会検定会員。国際公認投資アナリスト。東京五輪・パラにボランティア参加。プレスチームの一員として国内外の報道対応に奔走したのは貴重な経験。

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