日産、仏政府の支配を断念させた伝家の宝刀 「ポストゴーン」を睨みルノーとの統合を強化

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実際、日産の西川廣人CCO(チーフ・コンペティティブ・オフィサー)も「この権利は抑止力で使わなければ使わないに越したことはない」と強調する。

これまで、日産・ルノー連合は2社のCEOをゴーン氏が兼任することで仏政府を交えた3者の微妙なバランスを取ってきた。ゴーン氏が2社のCEOであり続ける限り、日産がルノー株を買い増すような「非常事態」は起こらないと言えそうだ。

問題はゴーン氏が退任した後にある。ルノーには、CEOの定年は65歳だが、任期中に再任されればさらに4年間継続できるというルールがある。現在61歳のゴーン氏がルノーCEOの任期を迎えるのは64歳だが、再任されれば、68歳まで定年を延長できる。仮にあと7年間、両社のCEOを務めたとしても、いずれ去る日がやってくる。

日産・ルノー連合で自動車トップ3を目指す

12月15日の会見では、2016年に機能統合の次のステップを発表することを明かした

西川CCOは「5年、10年先の将来を見据えて、次の世代の人が(日産・ルノー)連合を発展させていくベースの枠組みを作った」と語り、ポストゴーン体制も念頭にあったと言える。

日産とルノーは2014年4月に研究開発、生産技術、購買、人事の主要4機能を統合し、コックピットやエンジンなどで「CMF」と呼ばれるモジュール化を加速させている。

日産・ルノー連合の今後について、ゴーン氏は「合併は時期尚早で、シナジー効果を出すための障壁を解消していく」とした上で、「2016年に(機能統合の)もう一つのステップを発表する」と宣言。難交渉の決着を受け、カリスマ経営者の意識は既に次の戦術に移っている。

今回の合意でルノーが発表した声明には、「今後の数年間で連合が世界のトップ3入りを目指す上で必須のステップ」とある。2014年、日産・ルノー連合の世界販売は850万台で4位。1000万台前後のトップ3(トヨタ、VW、GM)との距離を任期中にどう縮めていくか、2社のCEO兼務が11年目に入ったゴーン氏にとっては、今後は自身の仕事を仕上げていく時期になりそうだ。

 

木皮 透庸 東洋経済 記者

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きがわ ゆきのぶ / Yukinobu Kigawa

1980年茨城県生まれ。一橋大学大学院社会学研究科修了。NHKなどを経て、2014年東洋経済新報社に入社。自動車業界や物流業界の担当を経て、2022年10月から東洋経済編集部でニュースや特集の編集を担当。

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