原油安はある意味、産油国が負けて消費国が勝つゼロサムゲームだ。一般的に考えると、原油価格が下がれば消費者が思いがけない棚ぼたを生かそうとするため世界的な需要が刺激される一方、産出国は減産を通じて産油量を調節する。
しかし2015年は、このような行動の違いが見られなかった。理由の1つは、新興のエネルギー輸入国が1980年代よりも世界経済における存在感を増しており、こうした国々の原油市場へのアプローチが先進国よりも干渉的なためだ。
インドや中国のような国は消費者のために低価格を維持する目的で、政府補助を活用する。原油価格が上がればこうした補助金の額は莫大になる。逆に原油価格が下がると、新興市場国の各政府はその機会を利用して補助金を減らす。
同時に、歳入の急減に直面している産油国の多くは、歳出削減を迫られている。原油も資金も潤沢なサウジアラビアでさえ負担に悩まされている。同国は人口が急増し、中東紛争に関連した軍事支出も増えている。
2020年には60ドルまで回復
原油相場はかつて考えられていたほどには、景気循環を動かす独立した存在ではないと思われている。ただ、経済成長の鈍化を背景に、世界の石油産出・探査への投資は2015年に1500億ドル減った。この状況が徐々に原油価格に織り込まれて、市場価格は2020年までにバレル当たり60ドルまで回復するだろう。
2016年に向けての朗報は、ほとんどのマクロ経済モデルが今後数年間、原油の低価格が経済成長に寄与する方向にあると示唆している点だ。新興市場の原油輸入国では、安い石油価格が成長を支援する。
一方、産油国のリスクは増大し続けている。国内統治の厳しいベネズエラなど数カ国は経済が崩壊。コロンビアやメキシコ、ロシアなど為替を変動相場制にしている国々は、かなり厳しい財政上の制約に直面しながらも、これまでのところ何とか対応してきた。ただ、原油安が続けば、特にロシアの状況は厳しいままだろう。
対照的に、固定為替相場制の国の体制はより厳しく試されている。長年にわたり通貨をドルに連動させてきたサウジも、かつては無敵のように思えたが、ここ数週間は非常に追い詰められている。
要するに、2015年の年初に考えられていたほど、原油価格は2015年の世界経済成長にとって重大ではなかった。そして主要な産油国の多くが危機を回避してきた。しかし来年は、特に産油国にとっては悪い意味で、違った年になるだろう。
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