意外と知らない、イスラム教の「カネ問題」 日本人が見落としがちな「2つの視点」

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もうひとつ、イスラムについて見落とされがちな視点があります。それは、イスラムが巨大市場だということです。

現在のイスラム圏では、経済が著しく成長しており、世界経済の大きな一翼を担っています。「イスラム国(IS)」の過激な行動が連日、大きく報道されるため、イスラム経済の可能性が影に隠れてしまいます。

知られざるイスラムという巨大市場

現在の世界人口に占める宗教の割合は1位がキリスト教で約32%、2位がイスラム教で約23%です。中東、アフリカ、インドネシア、マレーシアなどのイスラム圏諸国は世界人口の約4分の1を占め、19億人の300兆円の市場規模と言われます。イスラム市場は大きなビジネス・チャンスの可能性を秘めています。

イスラム教徒の人口は2030年に20億人を超え、世界人口の26%に、2050年に30億人、世界の3人に1人がイスラム教徒になり、国際社会での存在感を増すことは間違いありません。BRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国)の名付け親である投資会社ゴールドマンサックスはBRICsの次に成長してくる新興国11カ国を「ネクストイレブン」とカテゴライズしました。11カ国とは、ベトナム、フィリピン、メキシコ、韓国の4か国と、パキスタン、バングラデシュ、イラン、ナイジェリア、エジプト、トルコ、インドネシアの7つのイスラム教国です。

中国も高度経済成長を達成し、成長に陰りが見え始めています。イスラム圏が新たに世界経済を牽引することができるかどうか注目されます。

成長著しいイスラム経済に積極的に関与している先進国がイギリスです。2004年、イギリスはイスラム系の銀行業務専門の「イギリス・イスラム銀行(Islamic Bank of Britain)」と、投資銀行業務専門の「ヨーロッパ・イスラム投資銀行(European Islamic Investment Bank)」の設立を認可し、イスラム金融との連携を推進し、オイル・マネーの取り込みを目指しています。

イスラム教では不労所得や投機は認められず、そのため、利子徴収が禁止されています。イスラムでは、債券から派生する利子を利子とせず、迂回的な手続きによって、配当やリース料という名目に転換し、名目上の利子取り引きを回避します。イスラム圏と取り引きをするためには、イスラム法に規定された独特のルールを受け入れなければなりません。税などの法的枠組において、例外措置を講じる必要が発生します。

たとえば、イギリスはイスラム債から派生する実質利子を非課税として、名目上、利子とは見なさない、とする優遇策を採っています。2014年、イギリス版のスクーク(イスラム債)がイギリス国内で発行されました。日本もイスラム債の実質利子を海外取引者との間に限り、非課税にする優遇措置を採り、すでに法整備もなされています。しかし、日本にとって、イスラムはいまだ遠い存在で、イスラム市場に積極的にコミットしていこうとするインセンティブが少なく、また、ノウハウの蓄積も乏しいと言わざるをえません。日本は果たして、成長するイスラム市場へ参入することができるでしょうか。

イスラム国による残忍な事件の影で、見落とされがちなカネと経済の問題について取り上げました。これらを知っておくと、世界情勢の見え方も少し違ってくるかもしれません。

宇山 卓栄 著作家

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うやま・たくえい / Takuei Uyama

1975年、大阪生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業。代々木ゼミナール世界史科講師を務め、著作家に。各メディアで、時事問題を歴史の視点でわかりやすく解説。著書に『朝鮮属国史 中国が支配した2000年』、『韓国暴政史 「文在寅」現象を生む民族と社会』、『経済で読み解く世界史』(以上、扶桑社)、『民族で読み解く世界史』、『王室で読み解く世界史』(以上、日本実業出版社)、『世界史で読み解く天皇ブランド』(悟空出版)、『民族と文明で読み解く大アジア史』(講談社)など、その他著書多数。

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